【第62回】累計6億部以上!『ONE PIECE』『BLEACH』など大ヒット作の立ち上げ編集・浅田貴典が語る漫画話

2020年2月9日(日)、東京ビッグサイトにて行われた同人誌即売会「コミティア131」の「ジャンプルーキー!/ジャンプPAINT」ブースにて、『ONE PIECE』『BLEACH』『アイシールド21』などを立ち上げた編集者・浅田貴典による講演が行われました。「Twitterや会場で質問を募り、漫画編集の裏側を赤裸々に明かす」という趣旨で展開された講演のレポートを、皆さまにもお届けします!

集英社 第3編集部部次長 浅田貴典
イラスト:松井優征

集英社に入社後、週刊少年ジャンプ編集部、ジャンプSQ.編集部、JUMP jBOOKS編集部、キャラクタービジネス室を経て、現職。初代担当作品:『ONE PIECE』『BLEACH』『アイシールド21』『Mr.FULLSWING』『血界戦線』など。


■Part 1/作品作りの秘訣

浅田:初めまして。集英社の浅田と申します。漫画の編集部から小説、ライツ、デジタルなど色々な仕事を経験してきました。これからお話することは昔の方法論かも知れませんが、漫画を描かれる方の参考になることがあれば、ぜひ持っていって下さい。

司会・伊藤拓哉(「少年ジャンプ+」編集部):早速ですが、本日は浅田さんが考える作品作り、編集者の付き合い方などについて伺っていきます。事前にTwitterで質問を受け付けていたので、まずはそちらにお答え下さい。


【質問】「久保帯人先生の『BLEACH』のような作品を描くにはどうすればいいですか?」

浅田:いやぁ(笑)、いきなり難しい質問ですね。参考になるかどうか分かりませんが…例えば『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生は、鳥山明先生の影響を多分に受けられた方です。ただ尾田先生は『DRAGON BALL』をそのまま研究するのではなく、鳥山先生が影響を受けた作品に遡って勉強されたそうです。なので質問された方が『BLEACH』みたいな作品を描きたいなら、まずは自分が『BLEACH』のどこが好きなのかを考えるといいかもしれませんね。久保先生は色々な魅力を持つ作家さんですが、その中でもどこに一番惹かれるのか。キャラクターデザインのセンスだったり、リリカルな言葉遣いだったり、技を出した時の見栄を切る演出だったり。久保先生の一番好きな部分を意識して、自分が本当に好きなものを考えてみて下さい。その上で、インスタグラムを見るのか、詩を読むのか、色んな作品の演出アイデアを注目するか、やり方はいくらでもあるかと思います。

【魅力を感じるポイントは人によって千差万別。まず、自分の「好き」を探そう。】

伊藤:自分の嗜好を理解し直すということですね。

浅田:漫画家を志す方は、好きな作品をとにかく細かく読み込んだ方が良いかと思います。漫画は多くの要素の組み合わせなので、その中で自分は言葉が好きなのか、キャラクターが好きなのか…とか。「作品のここが好きで、それを見ていると嬉しい感情が湧いてくる」と自覚できるようになるといいですね。さらに言うと「好き」だけではなく「こんな演出があると不安になる」「この表現はなぜかムカつく」とか、何を見ると自分の感情がどう動くのか知ることが大切なのでは、と。


【質問】「『ONE PIECE』も『BLEACH』も台詞が心に残る「台詞が強い」作品です。台詞の力をつけるにはどうすればいいですか?」

浅田:難しい質問が続きますね(笑)。

伊藤:私も編集者として「頑張って色々な作品を研究してみてください」と参考になる作品をお渡ししたりすることが多いのですが、もっといいアドバイスがないか気になります。

浅田:例えばスポーツ選手が試合で発揮する力は、それまでに積み重ねてきた練習量によるものです。作品作りも同様に一朝一夕で言葉の力がつくことはありません。先程の話に通じますが、小説でも漫画でもTwitterでも、言葉によって心が動かされた経験が必ずあるはずです。その「この言葉を受け取った時、自分はこういう感情になる」ということを自覚することから始めた方がいいと思います。
もう一つは、その言葉が作中でどう使われるかの掘り下げです。例えば「愛している」という台詞がある時、それを言ったのは大好きな異性なのか、後輩なのか、ずっと憎んできた敵なのか。そして口調や言われるシチュエーションで、同じ「愛している」でも全然印象が変わってきます。さらには「自分だったらこんな風に“愛している”と言われたら、絶対に惚れちゃう!」という妄想までできれば完璧です。つまり「言葉が強い」作家さんは、「キャラクターにこう言われたら、自分はこう感じる」という意識というか、感情というかが、常人よりも強いんじゃないでしょうか。

【『ONE PIECE』574話でのエースの言葉。シチュエーションによって言葉の受け取られ方は大きく変化する。】

伊藤:台詞も作品に入り込んで考えるということですね。

浅田:作家さんだったら、まず作品に入り込めないことはありません。それでも「今ひとつ言葉が弱いなぁ…」と言われるのであれば、表現の仕方が拙いのかもしれません。感情の総量が足りないなら、もっともっと「好き」「嫌い」をつきつめた方が良いと思います。


【質問】「編集者に“もっとキャラクターを立てて強くして”と言われます。強いキャラクターはどう作ればいいのでしょうか?」

伊藤:これもよく聞く悩みですね。キャラクターの作り方というか…。

浅田:僕はよく「キャラクターは“作る”より“ずらす”方が100倍楽」とお伝えしています。例えば高橋留美子先生の『うる星やつら』『らんま1/2』という作品があります。『うる星やつら』の諸星あたると『らんま1/2』の八宝斎は、考え方や行動というキャラクター性だけ抽出すればかなり同じです。一方は高校生の主人公でもう一方はお爺さんですが、どちらも可愛い女の子がいると飛びつかずにはいられないキャラクターですね。年齢や立場、能力、周囲との関係性を変えるだけで、その印象は様々に変わるんです。
これは企画性にも言えて、『北斗の拳』とか良い例ですよね。あの作品には様々な魅力が組合わされています。池上遼一先生の『愛と誠』みたいな物語要素だったり、映画『マッドマックス』の世界観だったり、アーノルド・シュワルツェネッガーのようなマッチョなキャラクターだったり、ブルース・リーのような東洋の拳法を盛り込んだり…。だからといって『北斗の拳』が他の作品の寄せ集めかというとそんなことはまったくなく、多くの人の心を打つ作品に昇華されています。それはやっぱり武論尊先生の言葉、原哲夫先生のキャラの表情、絵柄の説得力という、作者の個性が強いからですよね。作家先生が「本当に好き、カッコイイ!」という部分が出ているんだと思います。

伊藤:本当に好きなものでないと取り入れても効果がないんですね。

浅田:ええ。種をどこから取るかということです。それは漫画でも小説でも映画でもゲームでもいいんです。現実の人物・出来事から着想を得てもいい。いっそ伊藤さんからキャラクターを作ってもいいんです。伊藤さんのキャラクター性を取り出して、ビジュアルを女の子にして、しかも萌えキャラにして…という風にずらしたりして(笑)。

伊藤:ブラッククローバー』の田畠裕基先生も、先輩をモデルにして団長のヤミを考えられたそうです。モデルを置いて、そこから変えていくという作家さんは多いのかも知れませんね。

浅田:この作り方は敵役でも良い。誰にでも1人くらい「あいつだけは絶対に許せない!」みたいな嫌いな人がいるじゃないですか。そういう人を自分の漫画の中で、けちょんけちょんにしてやりましょう。そっちの方が面白くなります。


【質問】「浅田さんが担当された新人時代の尾田栄一郎先生は、他の作家さんと比べてどこがすごかったですか?」

伊藤:当時からプロ意識がすごかったというお話はよく聞きますが…。

浅田:尾田先生はあらゆる面ですごい作家さんですが、僕が特に感じたのは、成長のためにご自身のステージを強く意識されていた点です。新人時代から自分を客観視して、「この能力を鍛えるために、今はこれをやるんだ!」と明確に意識されていたというか。尾田先生の中に、尾田先生を導くコーチが同居している感じでしょうか。

伊藤:「カラーを鍛えるためにカラーイラストを描くんだ」「キャラデザを鍛えるためにキャラクターを描くんだ」とか?

浅田:それこそ「少年ジャンプ+」の僕のエッセイインタビューでも言いましたよね。「連載になった時に、カラー原稿を描く機会が増えるから、その時のためにクオリティを上げたり、スピードを早めるために、カラーイラストの習作を描いておこう」とか。新情報でなくて申し訳ありません!


【質問】「一番効率のいい、画力の向上方法を教えて下さい」

浅田:ええ~(困惑)。それって絵が描けない編集者に言われて信用します?…なのでそこは差し引いて頂きたいのですが、まず「漫画において“上手い絵”とはどんな絵なのか」ということを考えたいです。一般的に「上手い」とされる漫画の絵は、線が多くて細部まで描かれている「精緻で画面の密度が高い」ものが多いですよね。実際にそういった絵は魅力的で、コミックスの売り上げにも影響してきます。
でも、漫画は絵だけで成立するものではありません。例えば『ボボボーボ・ボーボボ』の澤井啓夫先生の絵は精緻とは対極の印象ですが、作品として最大級に上手い絵だと僕は思っています。というのも澤井先生は『ボーボボ』のネームの面白さを表現するために、敢えて小学生が真似しやすいキャラクターデザインにして、絵も勢いを出すために乱雑にしています。そしてその絵があるからこそ『ボーボボ』は面白い、つまり漫画として最大限に上手い絵と言えるんです。

【第1話ボーボボの登場シーン。一目見て頭に残るキャラクターデザインと画面の勢いがある。】

そこで先程の「画力を上げるには」という質問に戻ると、「では、どういったネームを描きたいのか?」ということに立ち返ります。「女の子が可愛いラブコメ」を描きたいのであれば、女の子の表情が魅力的に表現できて、顔以外にもうなじの色気とか、シャツの隙間から覗く脇とか、座った時にちょっと崩れる太ももとか…僕の趣味ばかりで申し訳ないですが(笑)…自分のフェチにも気を使うべきでしょう。つまり「この作品を描きたいから、この演出が必要で、そのためにこの絵を描けるように練習をする」と逆算で考えるべきです。
その上で僕が練習として一番効果的だと考えるのが、自分が理想とする漫画ページの模写です。その際、コマ割も背景もフキダシも全部きちんと模写して下さい。そして「なんでこのキャラクターはこっち向きなのか、なんでフキダシがここにあるのか」とか、作家の意図を汲み取りながら描くんです。そうするとだんだん、ページに凝らされている工夫が自分の力になっていくと思います。

伊藤:台詞作りもキャラクター作りにも通じますね。観察して掘り下げて、それを自分のものにするということですね。

浅田:漫画には「たまたまこの絵になった」という偶然の絵作りはありません。カメラをどこから向けるか、どこにキャラクターを置くか、どこに台詞を置くか…と、すべて作家が考えて描くものです。
もっと言うとキャラクターデザインだって、そのお話で活躍させるためにはどんなビジュアルで、どんな佇まいで、どんな表情を見せるのか…とか、全部逆算から生まれています。漫画は作家がすべてを支配するメディアだからこそ、そこに意味や意図を込めて作ることが大切です。だから漫画に限らず他の作品を見たら、作った人の意図を汲み取ろうとして、そこで生まれた自分の気持ちを大切にして欲しいです。
たぶん成長するための秘訣って「何をお手本にするか」「その中から何をくみとるか」だと思います。そして、何をお手本にするかは、当人の「何となく好き」が大切なんじゃないでしょうか。
僕は何かに迷った時は「理由は分からないけれど、こっちの方が気になる!」と思った方を選ぶようにしています。「何か気になる」とは、過去からの経験が「こっちを選べ」と言っていることなんですよ。その上で「自分はこれのどこが気になるのか?」をひたすら突き詰めます。正しいとか間違っているとかは関係なく、自分に腹落ちする言葉が出てくればいい。これは作家さんも編集者もそうですが、「なぜこれが気になるのか、自分に納得できるように説明できる」ことが重要だと思っています。


■Part 2/編集者との関わり方

伊藤:では次に、会場の皆さんからの質問にお答えします。どなたかいらっしゃいますか?

【質問】「作品を持ち込んだ時、編集者は漫画家とどんな話をしていますか?」

浅田:作家さんによってバラバラです(笑)。ただ僕が心掛けているのは、作家さんにきちんと「このネームのここが好き」と伝えることです。それは特定のキャラクターの表情だったり、どこかの台詞だったり、作品のアイデアであるかも知れない。とにかく、好きになったものはどんなに細かいものでも、きちんと伝えるようにしています。とはいえそれ以外は、やっぱり作家さんによって違いますね。細かく伝えた方が成長する人もいれば、言うことを聞きすぎて小さくまとまってしまう人もいますし。…すいません、あまり答えになっていないですね。


【質問】「作品に携わることで編集者にも作品を作る能力が蓄積されていくと思いますが、浅田さんは漫画原作者になることを考えたことはありますか?」

浅田:編集者上がりの原作者さんはたまにいらっしゃって、浦沢直樹先生を担当された長崎尚志さんが有名ですよね。ただそれは個人個人のタイプによるもので、僕自身で言えば、まったくなれる気がしましせん(笑)。僕はどちらかというと「この作家さんすごい!」と仰ぎ見て、「こうなってくれたらもっと好き!」と…あくまで売り上げが上がることが前提ですが…作品を、より応援したいと考えるタイプです。

伊藤:ゼロから1を生み出すことが好きな人もいれば、1あるものを100まで持っていくことが好きな人もいますよね。ちなみに浅田さんが作品の企画やキャラクターなど、「これは自分がゼロから考えた」というものはありますか?

浅田:ないないない!全然ないです。そういうことは一切できる気がしない。世の中にはシングルタスク向きの人間とマルチタスク向きの人間がいますが、僕は編集者にあるまじき超シングルタスクの人間です。仮に編集をしながら自分で企画を考えたら、他の仕事がガタガタになってしまいます。絶対やれないです。


【質問】「編集者には様々なタイプがいますが、どんな編集者と付き合うべきですか?」

浅田:これは正直、その作家さんのライフプランによると思います。アマチュアの世界でスケジュールを気にせず納得のいく作品を描きたい方もいれば、他の仕事をしながらSNSで作品を発表したい方もいるし、商業でバリバリ描いて何億円も稼ぎたい方もいます。その上で個人的な意見ですが、まずは作品を見せて、それを好きだと言ってくれる編集者と付き合うべきだと思います。

伊藤:好みが一緒だったり自分の持ち味を分かってくれる編集者の方が、より作品を向上できるということですね。

浅田:「あなたの作品のここが好き!」ということを、きちんと腹落ちできる言葉にしてくれたり、作品にとって有益な意見を出してくれる人がいいですね。そもそも「あれが駄目、これが駄目」とずっと言われたら、まず気持ちがもたないですし。
あとは編集部のカラーで決めるという手もあります。このコミティアの会場にも多くの編集部が出張していますが、本当に色々な雑誌がありますよね。「この編集部は自分と同じカラーだから馴染めそう」「この編集部には自分のカラーがないから、逆に重宝されるかも」とか。


【質問】「複数の編集者から意見をもらうことがありますが、皆バラバラでどれを聞けばいいのか分からないです」

浅田:編集者によって考えが違うこともあるので、誰が正しいのか分からなくなることはありますが…僕はそれは作家さんの覚悟の問題だと思っています。編集者がどんなアドバイスをしようと、受け入れるのは間違いなく作家さんです。「俺は覚悟をもってこの意見を受け入れる!」ということは、逆に言えば「だから成功しても担当編集のお陰ではなく、受け入れた自分の手柄だ」ということです。異なる意見がいくつ出ようと、自分がいいと思うものを自分の覚悟で受け入れる。そして成功したら自分の功績である…と振る舞うべきです。とはいえ「こいつの言うことも聞いておかないと、ネームが通らないんだよなぁ…」という現実的な問題もあるかも知れませんので、キレイ事寄りの意見ではあります。


■Part 3/紙とデジタル…多様化する漫画界

伊藤:今、我々がいるコミティアもそうですが、同人誌即売会やネットなど、近年は漫画を発表する場がたくさんあります。商業誌で連載するメリットとは何でしょう?…と、僕が聞くのもおかしな話ですが。

浅田:いやいや、おかしいでしょう(笑)。…えーと、僕が考える商業誌のメリットを挙げてみます。
まずは担当編集が作品作りに携わる点です。僕は作家さんのネームに意見する時、重大な責任を感じています。僕の発言で作品が変わり、作家さんの人生も変えてしまう可能性があるからです。なので作家さんの「こんな作品にしたい」という方向性があり、僕から見て「こうした方が売れるのでは」という意見もあり、両者を結んだ点を、僕たちが目指す地点とします。そこに向けて作家さんにアドバイスするのですが、その言葉はできるだけエビデンス(証拠)に基づくように心掛けたい。
僕は作品を「自分が好きなもの」「自分が嫌いなもの」と、「売れているもの」「売れていないもの」の2×2の組み合わせで見ています。「自分が好きで売れている」作品は最高!「自分は嫌いで売れていない」作品もまあ、理解できます。一番気を付けているのが「自分は好きだけれど、売れていない」作品で、こういったケースこそ客観的なエビデンスが重要です。好きなのに上手くいっていないからこそ、アンケートの順位や売り上げといった数字のデータを元に、説得力のあるアドバイスを考えないといけない。そして版元にいるから、大量のデータを持つことができます。さらに版元の編集は自分の担当作品だけでなく、色んな作品のアンケートや売上げの結果に基づいてエビデンスが蓄積されて鍛えられるので、作家さんにより有益な言葉を発することができると思います。エビデンス抜きの言葉は、感想としてはアリですけど、助言としては精度が低いと考えてます。
あと商業誌の利点として宣伝があります。SNSで個人的に宣伝されている作家さんも多いですが、世の中に気づいてもらうことは大変ですよね。出版社には宣伝部や販売部があり、その部分を請け負えます。書店さんとのキャンペーンとか、個人ではほぼ不可能なことも実現できます。あと版権管理もありますね。一つの作品が成立した際はグッズ化や映像化、デジタル展開など、より多くのリターンを作家さんにお渡しすることができます。


【質問】「今の時代、web連載と雑誌連載はどちらが良いですか?」

浅田:え~…、作家さんによるとしか(笑)。

伊藤:web雑誌の編集として言わせて頂きますと、「少年ジャンプ+」はページ数も掲載ペースも自由に調整できる点が強みですね。紙媒体だとページ数や刊行ペースが決まっているので。逆に紙媒体は掲載に制限があるからこそ作品同士の競争が激しく、その分鍛えられるという面もありますね。

浅田:これも作家さんの人生設計次第ですね。それ以外で敢えて分けるとしたら、誌面の大きさでしょうか。例えば「少年ジャンプ+」はユーザーの環境によりますが、スマホの小さい画面で読む方が多いですよね。そうなるとスマホの画角で作品が生きるネームが有利となります。逆にB5判の雑誌で最大限に魅力が出る作品もありますよね。例えば三浦建太郎先生の『ベルセルク』が最初からスマホ連載だったりしたら、あの絵がもったいないじゃないですか!

伊藤:確かに!僕らは生原稿を手にすることが多いですが、読者の目に触れるのはスマホの画面かと思うと、もったいなく感じることは多々あります。例えば『群青にサイレン』の桃栗みかん先生の生原稿って無茶苦茶綺麗なんですよ!

浅田:ああ、桃栗先生の原稿の美しさはドン引きするくらいですね。上手い作家さんのアナログ原稿は「人間はこんなにも綺麗な線を引けるのか!」と驚かされます。アナログもデジタルもそれぞれ持ち味がありますが、原画は実際に手に取ると本当にすごいんですよ!

伊藤:こればかりは担当編集だけの特権ですよね。

【『群青にサイレン』の生原稿。一つ一つの線が美しく、見る者を魅了する。】


【質問】「「りぼん」連載作品『さよならミニスカート』が「少年ジャンプ+」でも掲載されていますが、編集部間での作家や作品の横断はよくあるのですか?」

伊藤:さよならミニスカート』は「少年ジャンプ+」読者にも刺さる作品だと思うので、編集長同士や作家担当が相談して掲載することになりました。こういった横断は最近特に活発になっている印象がありますね。

浅田:僕個人の意見ですが、現在は少年漫画・少女漫画・青年漫画…といったジャンルが大分曖昧になってきた印象があります。それはデータ分析の面でも表れてきて、かつてのような年齢・性別のリサーチ以上に、web上での行動・動態(どこのリンクからきたか、他にどんなサイトを見ているか、など)を重視して、それによってサービスを考えることが主流になっています。例えば『さよならミニスカート』が好きな読者が、13歳女子も26歳男子でもそれぞれがお客さんです。今、集英社には複数のデジタル媒体がありますが、そこに集まるお客さんを分析して、それぞれに受け入れられる作品を組んでいくというのが今の流れだと思います。

伊藤:「少年ジャンプ+」編集者は「週刊少年ジャンプ」に担当を持つこともあるし、逆に「週刊少年ジャンプ」編集者が「少年ジャンプ+」に担当を持つこともあります。雑誌間の交流は、昔以上に柔軟になっていると思います。

浅田:だからといって雑誌編集部の意義がなくなったわけではなく、雑誌が一つのカラーを作っていることは間違いありません。作家さんや編集者によって「このカラーの場で連載したい」「敢えてこのカラーで逆のことをやってやる」と考えは様々ですが、雑誌で培われてきた哲学が作品を作る指針にもなっている。そういう意味では、雑誌の存在意義は今後もあり続けるのではないでしょうか。

伊藤:それでは時間となりましたので、本日の講演を終了させて頂きます。お集まり下さったみなさん、ありがとうございました!

浅田:ありがとうございました。これからも宜しくお願いします!


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【第61回】漫画歴、約40日!超バズったルーキー投稿作『ゲーミングお嬢様』の作者に迫る!!

いつもジャンプルーキー!へのご投稿ありがとうございます!

2019年12月にジャンプルーキー!に投稿された格闘ゲームを題材にしたコメディ作品『ゲーミングお嬢様』

作者は今まで漫画を描いたことすらなかったにも関わらず、ジャンプルーキー!上で690000閲覧。(2020年2月6日現在)Twitter上ではトレンド1位、フォロワー数10倍増、各メディアでインタビューを受けるほど大きな反響がありました。

そんな今話題のルーキー作家である大@naniさんへインタビューしました。

*****

――いつから漫画を描き始めたのか、また『ゲーミングお嬢様』を描こうと思った経緯を教えてください。

以前より、いわゆる女子3バカの日常ものの漫画を描きたい、という構想がありました。ですが、そもそも漫画を描いたことがない、画力もない、と二の足を踏んでいました。
自分の考えたネタが面白いかどうかもわからなかったので、とりあえずネタだけメモり続けるという日々でした。

最初のきっかけは、10月の初旬にTwitterで「身の回りの発言まとめ」というミームが流行ったことです。漫画のネタに使えそうなワードなどを逐一メモっておいたのですが、それをもとに自分でもミームを作ってみました。

大@naniさんの「身の回りの格ゲー勢の発言まとめ」

その結果、予想以上の反響を受けて、その中で好評だったネタがいわゆる「クソわよっ!!」系の格ゲーお嬢様ネタで、これはイケるなと確信しました。
やはり格ゲーは面白く、格ゲーマー達は面白い。それをそのまんま描いたら面白いだろう。と考えました。

さらにバズりたいがためにかなりのネタストックを消費した末に、「最初から漫画描けばいいのでは?」と天啓を得て描き始めたのが2019年の10月24日でした。
漫画を描くのは初めてで、何一つわかりませんでしたが、気合でネームを2日間かけて仕上げ、見るに堪えない画力ですがなんとか完成しました。
ですので、『ゲーミングお嬢様』は大体40日前後で1話目ができたことになりますね。

好評ネタ「クソわよっ!!」


――『ゲーミングお嬢様』を投稿してからの反響はいかがですか?大きな変化などあれば教えて下さい。

突然Twitterのトレンド1位になって、いくつかのメディア様からインタビューを受けることになりました。そこから、いくつかの出版社様から連載についてのお話を頂くことになりました。
あまりにも想定外の出来事が続いたもので、スマブラにリュウが突然参戦したときぐらいの驚きと喜びがありました。
Twitterのフォロワー様も10倍以上に増えて、「下手な発言ができない!」とプレッシャーを感じているところです。

一番嬉しかったことは、多くのプロゲーマーの方や、創作に関わる人たちと知り合いになれたことです。
憧れのプロゲーマーの人に作品を見てもらえた、知り合いになれた、というだけで「描いてよかった!!」と心の底から思っております。

『ゲーミングお嬢様』はプロシーンでの印象深いシーンなどを多くネタに使っています。もちろん、私もリスペクトを込めて描いているつもりではあります。
ですが、もちろんプロゲーマーの方々が不快に思うようであれば、決して使えません。そこで、好意的な判断をしてもらえた、というのは安心できましたし、これ以上無いほどの喜びでした。
それと同時に基本的には、格ゲーに限らず、様々なゲームジャンルを楽しむ人々が思わず笑ってしまうような「ゲーミングあるあるネタ」を主軸に描いています。今後はゲームを知らない人でも勢いで笑ってしまうような作品にしたいと思っています。

――これから漫画を描く人、ジャンプルーキー!に投稿しようと考えてる人へ

『ゲーミングお嬢様』はこのような「お排泄物画力」でもルーキー賞を受賞し、少年ジャンプ+への掲載を勝ち取ることが出来ました。
私は絵を描きはじめて1年、漫画に至っては初めて描いたものです。
つまり、画力に関わらず、面白いものを描けば評価される、ということを身を以て証明できたと思います。自らの大好きなものを、面白いと思うものを、思うがままに描けば、それはきっと面白いものになります。
とにかく描いて、作り出してみること。熱意のある作品は、熱意のある人々に、必ず伝わるものと信じています。

*****

ジャンプルーキー!は漫画を描いたことがない初心者でも大歓迎!!
引き続き、熱意ある作品のご投稿をお待ちしております。


『ゲーミングお嬢様』がブロンズルーキー賞を受賞した、2019年12月期 月間ルーキー賞発表はコチラ
月間ルーキー賞とは

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【第60回】『先輩がうざい後輩の話』著者しろまんた先生特別インタビュー!短いページでもマンガを魅力的にする極意!!

皆様、こんにちは。ジャンプ+編集部のSです。

突然ですが、まずは現在募集しているマンガ賞『週刊少年ジャンプに絶対載る!Twitterラブコメマンガ賞』をご紹介!

史上初!Twitterから応募して「週刊少年ジャンプ」掲載確約の大賞を必ず1本選出する、前代未聞のマンガ賞!
過去のSNS投稿作品もご応募可能!皆様の投稿お待ちしています!


ということで前フリが長くなりましたが、今回の編集部ブログは、

『週刊少年ジャンプに絶対載る!Twitterラブコメマンガ賞』にて特別審査員を務めていただいている
Twitterマンガで大人気!フォロワー数76万越え!
『先輩がうざい後輩の話』の著者・しろまんた先生特別インタビュー!!


―――まずは、しろまんた先生が思う短いページ数でのマンガの良いところ、難しいところをお教えください。
短いマンガの良いところは、通勤時間やお昼休み、学校の授業の間などで軽く読めるので読むのにとっつきやすく、ストーリーも大体が凝縮されて分かりやすいものになっているので普段マンガを読まない、時間が無くて読めない方々にも優しいマンガだと思います。
続いて難しいところは、一見すると長尺のマンガより簡単そうに見える短いマンガですが、思いついた話を短いページに落とし込む必要があるので、無駄なセリフを省いたり、セリフが多くなって駆け足気味になると会話に違和感が生まれたりと、挑戦される方の中には苦戦される方もいらっしゃると思います。

―――短いページ数のマンガを作成するにあたって、注意している点はどんなところですか?
なるべくセリフが野暮ったくならないように文字数や言葉の選択などに気を使っています。
極端な例ですが、友達などをラーメンに誘う台詞などで「ラーメンを食べに行こうよ」だと少し言葉の滑りが悪く感じるので「ラーメン食い行こうよ」と言った感じに1度自分で声に出してみて、関係性に沿った自然な会話になるように気をつけています。

―――短いページ数の中でキャラクターを魅力的に見せる工夫などありますか?
表情にはかなり気を使っていて(描くのが楽しいのが一番の理由なのですが)セリフが多くない分、表情を見て読者側が「今こういう気持ちなんだろうな」とか「かわいいな」「かっこいいな」と思っていただけることを目標に描いています。

―――今回の募集ジャンルでもあります「ラブコメ」を描く上で大切にしている点などありますか?
僕自身、皆が幸せなお話が大好きなので落ち込んだ終わり方はあまりしないよう心掛けています。
描く側の僕がそうなんですが、読んでる側の方々も同様だと勝手に考えていて、応援してるキャラが幸せだと幸せな気持ちになっていただけると思うんです。
スパイスとして少し切なかったり悲しいお話も大切ですが、ずっと辛いラブコメを僕はあまり読むのが得意ではないので、自分が好きなものを精一杯描くよう努力しています。

―――では最後に、応募を考えている投稿者へメッセージをお願いします!
今回このような大役に推薦して頂き、本当に嬉しいです
投稿を考えられていらっしゃる方や、悩んでいらっしゃる方、または自分で呟くからいいと思われている方、様々かと思います。
ですが、4ページマンガは露出してなんぼだと思うのでTwitterだけにとどまらずこういう機会を逃す手は無いと思います!
可愛いラブコメや切ないラブコメ、またまた意外なラブコメ等楽しみにさせていただいております。

―――しろまんた先生ありがとうございました!


しろまんた先生が描く『先輩がうざい後輩の話』(一迅社)

購入はコチラ


君もしろまんた先生のアドバイスを参考にTwitterに投稿して今すぐ応募しよう!そして週刊少年ジャンプ掲載を決めよう!!

『週刊少年ジャンプに絶対載る!Twitterラブコメマンガ賞』は、2020年1月31日(23:59)まで応募できます。

投稿方法は超簡単!
① Twitter「ジャンプルーキー!」のアカウントをフォロー
② 「ジャンプルーキー!」のアカウントからのDMが受け取れるように設定
③ Twitterの1ツイート内に、原稿画像(4ページ以内)を載せ、作品タイトルとハッシュタグ #少年ジャンプに絶対載るラブコメマンガ賞 を付けて投稿

皆様の力作お待ちしています!!

『ジャンプルーキー!Presents 週刊少年ジャンプに絶対載る!Twitterラブコメマンガ賞』の詳細はコチラ↓


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【第59回】超速!連載グランプリ最終審査直前!漫画賞で見ている「ポイント」について

皆さん、こんにちは、ジャンプ+編集部のTです。
まずは「超速!連載グランプリ2019」へ応募いただけた皆様、ありがとうございました。明日12月6日から、少年ジャンプ+のアプリ上で、読者による最終投票を行います。3日間で最も「いいジャン!」を集めた作品は、即連載とコミックス化が決定します!たくさん読んで、良いと思った作品には是非「いいジャン!」して下さい!


さて、今回はそんな「漫画賞」に絡んだお話を少しだけ。

これまでジャンプ+編集部では、「超速!連載グランプリ2019」をはじめ、様々な漫画賞を開催してきました。毎回たくさんの力作をご応募いただいていますが、毎回全ての作品に複数の編集部員で目を通し、審査会議を開いて結果を決めています。

↓審査会の雰囲気は、こちらの「超速!連載グランプリ」一次審査会議の議事録を見ていただけたら、何となくわかるのではないかと思います!
現場編集による審査会議内容はコチラ


さて、現在、「ジャンプルーキー!」では、6つの分野でバッジを用意しています。ご存知な方も多いかと思いますが、「画力」「構成力」「演出力」「キャラクター」「ストーリー」「オリジナリティー」という6分野です。

実はこれ、個人的には少し分かりづらいなと思っていまして…だから、特にどんな「ポイント」を見ているかを今回のブログで少しだけご説明できたらと思った次第です。実際には、何を「面白い」と感じるかも多様なものですし、大切にしている点は編集者ごとに違うので、鵜呑みにしすぎずに、気軽に読んでください。


1.画力について
画力で最も注目しているのは「人」を上手に描けているかです。もっと言うと、細かい「表情」と「仕草」を描けているかを注目して見ています。物語の中とはいえ、実際にそこで生きていると感じさせるような表現が出来ている作家さんには、たとえ粗削りでも強く魅力を感じます。その人物になったつもりで、表情や仕草を考えてみて下さい。

2.構成力について
限られたページの中で、伝えたいことを読者に伝え、読みやすくする構成力の中で、個人的にポイントなのは、「場面転換の回数」です。シーンの切り替えが少ない方が、読み手にストレスを与えませんし、感情移入して読みやすいからです。プロット段階で感情の流れを意識して、不必要なエピソードを削り、順序を推敲すると良いと思います。

3.演出力について
コマ割のメリハリ、めくりと引き、カメラワークなど色々とあると思いますが、個人的なポイントは「絵とセリフの配置」です。読者は基本は吹き出しを追って読むので、見て欲しい「絵」が自然と読者の視線に入るように配置されているかを気にして読んでいます。情報量が多くても絵とセリフの配置が綺麗だと読みやすくなりますし、逆に少ない情報量でも、間を作ることで重要なシーンとして見せることも出来ると思います。

4.ストーリー
一番注目しているのは、どんな「感情」を体験させてくれる物語かということです。喜び、怒り、悲しみ…様々な方向性で、フィクションの中でしか味わえないような、感情の極致を見せてくれる作品を読みたいと思っています。ご自身が強い感情を抱いた時の経験を思い出しながら、膨らませていってもらえると良いと思います。

5.キャラクター
一番気を付けて見ているのは主人公の動機がハッキリとしているかです。
何がしたいのかわからない、または複数存在して本当に大切なモノが見えない主人公は肩入れして読むのが難しくなります。その動機のバックボーンを見せることも重要だと思います。

6.オリジナリティー
最後に、オリジナリティーですが、これはかなり「絵柄」に起因すると思って見ています。経験上なのですが、絵柄が独特な人はだいたい考えていること、テーマもユニークなことが多いからです。では、どうすればオリジナリティーを得られるか…とても難しい問題ですが、まずは自分が何を表現したいのか深く掘り下げ、そのために参考になりそうなものを漫画に限らずインプットし続けるしかないと思っています。


簡単になのですが、新人さんの作品を見る際に、特に気を付けている個人的ポイントでした。ジャンプ+では、これからもたくさんの漫画賞を精力的に企画していきます。自分の武器を見つけて磨いて、たくさんの力作を生み出していただけたらと思います。「ジャンプルーキー!」出身の作家さんからヒット作品が生まれることは、編集部としても嬉しくてたまりません。一緒に頑張りましょう!


■現在募集中の漫画賞です!ご応募待ってます!

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【第58回】漫画の奥深さを100倍感じる!漫画家志望者におすすめしたい傑作「連載第一話」3選!!

 皆様、こんにちは。
今回のルーキーブログを担当させていただくジャンプ+編集の小池均です。

 今回のルーキーブログのテーマはズバリ
 【漫画の奥深さを100倍感じる!漫画家志望者におすすめしたい傑作「連載第一話」3選!!】
 です。

 編集者の私は無類の漫画好きでもあります。ありがたくも子供の頃から素晴らしい漫画家さん達の傑作漫画を読みながら育ちましたが、今回はその中から私的に『読切や連載第一話作りに悩む漫画家志望者に読んで欲しい漫画』という観点で3作品を紹介させて戴きます。
 ※今回記するのは「ジャンプ編集部に脈々と伝わる意見」ではなく、あくまで小池個人の独断と偏見です。

 早速お品書きです。

 ① 『アイシールド21』…魅力的に整理整頓された情報の波状攻撃!な第一話
 ② 『プラネテス』…読者の脳内を使え!無限大の余白!な第一話
 ③ 『ドロヘドロ』…オリジナリティの美味なるカオス!な第一話

 参考にすべき素晴らしい第一話は数多あります。今回は皆さんに説明しやすくするために隠れた名作というよりは、誰もが1度は読んだことがあるようなTVアニメ化も果たしていて少なくとも絶対に名前を1度は耳にしたことがあるような超有名3作を改めて紹介します。
 昨今は公式HPや電子書店で1話目の試し読みが出来る場合が多い素晴らしい時代です。今回私も全力で利用させていただきます。
 志望者の方はこの3作に限らず片っ端から読んで、唸ってください。凄い漫画は凄い。凄すぎる。


【アイシールド21】原作:稲垣理一郎 漫画:村田雄介
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第一話目を読む

<あらすじ>
 泥門高校1年・小早川瀬那。気弱な性格が災いし、幼き頃よりパシリ人生を送ってきた。だがそのおかげで(?)ズバ抜けた俊足を持つ瀬那は、悪魔のごとき男・ヒル魔によりアメフト部へと引きずり込まれるが!?(ジャンプBOOKストア!より抜粋)

 とりあえず皆さま上のリンクから第一話をご一読下さい。

 …読みましたでしょうか?
 「2話目が読みたくてたまらん」な方はどうぞこのページは忘れてください。全37巻絶賛発売中です!

 正直お品書きの一言紹介でほとんど伝わった気もしますが、改めて紹介します。

 漫画家志望者さんは日夜連載の第一話や読切に頭を悩ませていると思います。その時に「情報は少なくしよう」とか「キャラは少ない方が回しやすいよ」みたいな編集との打ち合わせがよくあります。勿論、これは間違っておりません。
 漫画歴が短い新人さんだと、①主人公 ②ヒロイン ③敵の3属性のキャラで回し、設定も「良い意味で分かりやすく読者にとって馴染みがあるものにしよう」というのが基本になります。
 その点で「アイシールド21」を読むと『規格外』なことがすぐお分かりになると思います。
 キャラクタ―は大別して5属性もあります。①主人公のセナ ②ヒロインのまもり ③強引な先輩のヒル魔 ④穏健(ヒル魔をたしなめる)な先輩の栗田 ⑤敵(不良)の3兄弟
 更に、題材は「アメフト」という日本人にとってどうしても馴染みの薄い題材です。これは言い換えるとどうしても「分かりにくい題材」とも言えてしまいます。

 ですが、皆さん読んでみていかがだったでしょうか?分かりにくかったでしょうか?
 私は美しさに震えます。
 個人的に考えるキモは魅力的な情報の整理整頓です。
 ・アメフトはパワー、タクティクス、スピードの3要素のスペシャリストのスポーツという視点を読者に提示
 ・その3要素のアイコンとしてのキャラクター3人(セナ、ヒル魔、栗田)
 一番大きい整頓はこれですが、細かい整頓は微に入り細に入ります。更に整頓したうえで、3キャラを印象的に魅力的に立たせています。特にセナは序盤親しみやすくクライマックスでは熱くなる印象ですし、ヒル魔は一度見たら忘れられない強烈さです。
 以上を「気弱な小市民でパシリばかりの少年はその足を買われて、アメフトのヒーローへの第一歩を踏む」というストーリーラインに乗せています。<アメフト>を<日本>の<少年漫画>で魅せるということの難易度の高さを、キャラの魅力と徹底的な情報の整理整頓と適切な提示で成立させています。
 そこに超絶画力の村田先生によるキャラクターの絵の魅力、アクションの迫力などが全ての要素に掛け算となって更に上の領域の傑作になっています。

 「情報が多い第一話や読切はなるべく避ける」というのが常套手段であることは変わりません。ただ、そこを「情報の多さや馴染みの薄さを、工夫や魅力で乗り越える」という背中をアイシールド21の第一話は見せてくれます。
 皆さんも自分の描こうとしている題材の切り口を分析してみたり、キャラクターの配置を弄ってみたりすることで、「それまで入りきらなかった設定やキャラクターが、ストンと面白く収まる」かもしれません。


【プラネテス】著:幸村誠
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<あらすじ>
 しがないデブリ(宇宙廃棄物)回収船に乗り組むハチマキは、大きな夢を持ちつつも、貧相な現実と不安定な自分に抗いきれずにいる。同僚のユーリは、喪った妻の思い出に後ろ髪を引かれ、自分の未来を探せずにいる。前世紀から続く大気の底の問題は未解決のままで、先進各国はその権勢を成層圏の外まで及ぼしている。人類はその腕を成層圏の外側にまで伸ばした。しかし、生きることーーその強さも弱さも何も変わらなかった。(コミックDAYSより抜粋)

 続きまして2作品目です。こちらもまず第一話目をお読みください。

 重厚な雰囲気、感動するストーリーな第一話ですが、今回注目する所はちょっと違います。
 漫画家志望者の皆さん、お気づきでしょうか…。
 なんとこの第一話、ページ数が46ページです…。46P。しかも大ゴマもふんだんに使い、最後のページは真ん中にコマ一つ!
 私はプラネテスの第一話のページ数を何気なく数えて、「よ、46??80とか100ページじゃなくて?46」と仰け反った日の衝撃を忘れません。

 個人的な分析としては、「余白の巧みさ」が凄さです。背景やキャラクターの表情からくる想像が読者の脳内で増大して、具体的なセリフや説明モノローグ以上の「物語」を読者に植えつけます。勿論それは幸村先生の意図通りの物語なのですが、「1を見て10を感じる」の如く、少ないページで、コマで、キャラクター描写で雄弁に語ります。
 ハチマキやフィー(女船長)の言動や背景描写からは近未来の「日常物語」を匂わせますし、特にユーリの目は読者に「彼はどんな気持ちなのか」を100の言葉より想像させます。
 更にここまでミニマムな描写量でありつつも、実はエンディングに向かって更にどんどん余白が贅沢になっていきます。44-45ページの見開きはもはや無限。宇宙を感じます。
 
 アイシールド21では「魅力的な徹底整理で情報を提示しきる形」したが、こちらは逆に「ポイントを絞りきって紙面ではなく読者の頭に最高の完成形を描く形」です。
 「物語の奥行きを漫画内で語りきるのでなく、読者の頭の中の無限の宇宙を使う」というのもまた別の魅力的な第一話・読切の答えではないでしょうか。
 皆さんが描いている作品も「全てを語りきれない」となったら逆に「語りきるのではなく想像させる」ことで漫画が読みやすく魅力的になるかもしれません。


【ドロヘドロ】著:林田球
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<あらすじ>
 自分を醜い姿に変えた、憎むべき「魔法使い」を頭からバックリ!! 口の中にもう一人の人間を住まわせた謎の異形の男・カイマン。魔法使いたちに姿を変えられた時に記憶を失い、いまはただ連中を狩る日々を過ごしている。「口の中の男」が犯人を言い当て、元の姿に還れるその日まで…(SHOGAKUKAN COMICより抜粋)

 最後の3作品目はこちらです。第一話のご一読を。

 今回は皆さんの感想こそが答えです。
 あらすじからも一目瞭然。漫画のジャンルを「ほのぼのスプラッタ」「ラブ&バイオレンス」という唯一無二で評されるオリジナリティにあふれた傑作。既存の言葉では魅力を表現しきれない、他の漫画では決して味わえない中毒性がある作品です。
 正直こちらは1話だけじゃなく、1巻丸々とか全巻購入とかで味わって戴きたいのですが、前2作とは違う形の傑作として皆さんに紹介したいので並ばせていただきました。
 
 漫画家志望者の方々は日々「面白いとは?」「良い漫画を描くにはどうすればいいのか?」という事に向き合って鍛錬していると思います。「アイシールド21」と「プラネテス」はその筋道のひとつを見せてくれる様な傑作です。
 ただ、忘れてはいけないのは「結局、理屈は置いといて面白ければ勝ち」「分析は面白いorつまらないという感想の後に来るもの」という事です。「そのアクの強さが苦手な人が仮にいたとしても、一方面白いと買ってくれる人が数多くいれば商業漫画として大成功」です。
 その点で私にとっての傑作はこの「ドロヘドロ」です。大学時代に仙台の喜久屋書店で1巻試し読みを読み終わった瞬間にトカゲ触りの大型コミックスをまとめてレジに持って行ったことを思い出します。

 面白くするための手段は目の前の自分の作品に納得いかない時に使う『道具』でしかありません。これが「面白いんだ!」「絶対いいでしょ!」という情熱があるならば、まずは道具は置いといてそれを原稿用紙に叩きつけて欲しいです。
 その上で、読者や第三者の評価を真摯に受け止めるのがプロ作家でもありますが、悩んでいる方がいたら思い切りの良さも答えに繋がるかもしれません。


 以上、第一話・読切作りに悩んでいる漫画家志望の皆さんの役に少しでも立てればと願っております。
 今回の3作の紹介も1つの視点からの概要比較で終わったので正直語り足りないですが、各作の奥深さや別の観点からの紐解きは、読んだ皆さんの視点でして戴ければ幸いです。この3作品の素晴らしさは4000字程度の今回のブログでは収まりません…。

(文責:少年ジャンプ+ 小池均)


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【第57回】漫画描き始めの作家が読んだら役立つ本3選

こんにちは あるいは こんばんは。少年ジャンプ+編集部の林士平です。
担当作品は少年ジャンプ+で『SPY×FAMILY』『HEART GEAR』『ドリキャン!!』『ムーンランド』『彼女と彼』
週刊少年ジャンプで、『チェンソーマン』を担当させて頂いております。

僕は漫画が大好きです。沢山、面白い漫画を読みたいから、多くの方々が、漫画家を目指してくれたら嬉しいな、と思って編集者人生を送っております。

この記事が少しでも漫画家志望者の方々のお役にたてば、幸いです。

さて、今まで僕が漫画家さんを担当してきて、新人時代から売れっ子までたどり着いた漫画家さん達と打合せをしてきて、とある共通している点があることを、知りました。
何だか、分かるでしょうか?


それは、
「賞、読切作品、連載、どの段階でも、
 ずっと変化(成長)し続けていること」
です。


描ける絵が増え続けて、描ける物語の引き出しが増え続けて、扱える感情のパターンが増え続けたら、いつか必ず、賞、読切掲載、連載獲得、に辿り着きます。

では、人が変化・成長するためには必要なこととはなんでしょうか?

人が変わるには、以下の3つの方法しかない、と僕は考えます。

・付き合う人間を変える
・住む場所を変える
・見るものを変える

この中で一番、心のハードルが低いのが、
「見るもの」を変えること、
でしょう。

同じような作品を描き続けていると、どこかしらの壁にぶち当たって止まってしまうことが多く、漫画家を目指すこと自体を辞めてしまう人も少なくありません。

漫画家を、目指す人は、常に変化成長をし続ければ、必ず、賞や、読切や、連載にたどり着きます。

見るもののクオリティをしっかり吟味して、集中してインプットし続けて、変化。成長を楽しめば、自ずと漫画家の道は拓ける、と僕は信じております。

ということで、前フリが長くなりましたが、今日は、ルーキーブログを読みに来ている、漫画家志望の作家さん達の変化・成長に繋がる「本」入門編の3冊を、紹介をしようと思います。

*****

まず、1冊目は、『藤子・F・不二雄のまんが技法(小学館文庫)』です。

描くぼくが楽しみ
読んでくれる人も楽しむ
そんな漫画がずっと
ぼくの理想なんだ。

     藤子・F・不二雄

そんな言葉から始まる、藤子先生が考える、漫画への向き合い方、作り方を説明してくれている本です。

『ドラえもん』のネーム、コマを例示にした、キャラの作り方や舞台の資料探しの方法、シナリオ(物語発想方)の説明は、明快で非常に分かりやすいです。

藤子先生が、細部に渡ってプロとして、ここまで考え抜いて漫画を創っているのか、と思わされます。

藤子先生は漫画を読むことが、とても好きだったのだな、そして、その好きな「漫画」を沢山の人に描いてもらいたいのだな、という熱意と愛が全部のページから伝わってきます。
(藤子先生のその気持ちに僕もメッチャ共感して働いております…!面白い漫画、読みたい!ので是非に、みんな漫画描いてみて下さい!)

基礎的なことから、本質的なことまで網羅している素晴らしい本ですので、漫画家志望者だけでなく、創作を志す人には是非に読んで欲しい本です。


『マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術』

僕は、「漫画家という仕事は、一人で世界に届く映画を撮るようなものだ」
と、よく新人作家さんに伝えています。

物語は脚本家の仕事。
主役キャラは主演。
助演、エキストラと画面に出るキャラは全て描き出さなきゃいけない。
CG効果、クリーチャーデザインなんかも、全部自分。
大道具、美術、照明など(影の入れ方にウソを付くのかリアルに行くのか等まで…!)
描き文字は、まるで音響効果。
構図を決めるカメラマンの仕事も重要です。

漫画家は、個人で描いて、世界に届く、総合芸術エンターテイメント。
とても素晴らしい仕事であると同時に、学ばなければならないことは山程あるのも事実です。

その中で、執筆初期に学習すると良いなと思うのが
「構図」です。

映画やゲーム、アニメ等の「構図」に関して体系化された教則本は、豊富にあります。
「構図」が読者・視聴者に与える心理を解説した本を、積極的に吸収して、成長していきましょう。

『マスターショット』は、シンプルな構成で解説された本で、入りやすい一冊です。
登場や会話のシーン、格闘やホラー、キスシーンやベッドシーンまで。
映画やドラマが、どのくらい計算されて、アングルを決めているのが分かる、良い本です。
この他にも構図で参考になる本は多数ございますが、まずは入門としてこちらを是非に。


『骨は珊瑚、眼は真珠』

3作目は、少し毛色を変えて…。
池澤夏樹先生の短編集です。
魅力的な短編小説が9本収録されています。
僕は個人的には『北へ』という短編が、美しくて切なくて好きなのですが、今回、ご紹介したいのは『鮎』という短編の作者による「註記」部分です。

この話、もとはどうもスペイン語圏の民話らしい。しばらく前に英訳で読んだ覚えがあるのだが、細部は忘れてしまった。
〜〜
なお、芥川龍之介の「魔術」という話がほぼおなじからくりだから、どこかにすべての原点というべき話があるのだろう。

是非に『鮎』という作品自体を読んでから、この註記全文を読んで欲しいので、一部抜粋しての引用です。
電子書籍も出ているので是非に。

元になったスペイン語圏の寓話のような物語と、
この考え方に基づいて池澤夏樹先生が書かれている短編小説を読んで、
「面白さを分解して再利用して、新しい作品を創る」
という創作の面白さと、考え方を学んで欲しい、
僕は、そう願っております。

*****

今回の記事は、以上です!

新人作家との打合せの際に、伝えたいことや、読んでみたら、こう考えてみたら、とお伝えする一部を書きました。
本当に極々一部の話です。

担当作家さんには、打合せの共通言語を増やすため&成長してほしいので、僕が良い!と思った作品の数十タイトルのインプットリストをお渡しすることもあります。

自分が成長するためには何を読んだら、見たらいいのか、知りたい!気になる!という方がいらっしゃったら、
是非に、少年ジャンプ+編集部へ持ち込みに来てみて下さい! Twitterでも持ち込み大歓迎です。

少年ジャンプ+編集部の僕らは、
面白い漫画を描こうとする作家の味方であり、伴走者でありたいと願っております。

林士平


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【第56回】ジャンプの未来を担う漫画家集結!!「ジャンプルーキー!」デビュー作家100人突破記念イベントレポート!!

9月7日(土)、集英社にて「ジャンプルーキー!」からジャンプ各誌にデビューした作家が100人を突破したことを記念し、「ジャンプルーキー!」投稿者限定イベントが開催。当初の募集人数の倍以上となる、約70名の作家さんが参加されました。
当日の様子を、私ライターのオオバが紹介させていただきます。


「ジャンプルーキー!」のこれまでの歩みと今後の展望

担当の少年ジャンプ+編集部・籾山氏、そして、開発・運営のコアメンバーであるはてな・石田氏、ネットコンプレックス・今村氏が登壇し、最初のトークコーナーがスタート。「ジャンプルーキー!」のこれまでの歩みを紹介しました。


「ジャンプルーキー!」の実績

「ジャンプルーキー!」には現在、多い月では1000を超える作品が新規に投稿されています。話数でいうと、2000~3000話が毎月更新されています。
また、ジャンプ各誌でデビューを果たした「ジャンプルーキー!」出身作家の人数なども公開。週刊少年ジャンプを含むジャンプ各誌へのデビュー数は、現時点で110名を超えています。(決定済を含む)

また、「ジャンプルーキー!」への投稿について、運営を担当するネットコンプレックス・今村氏は「ジャンプルーキー!への投稿作品は、頻繁に編集部員がチェックしており、全ての作品に目を通しています」と語り、「ジャンプルーキー!」から原石となる作品を見つけ、ヒット作へと導くためのシステムが構築されていることをアピールしました。

「ジャンプルーキー!」ではこれまでも、投稿者や読者からの要望を受けて、コメント機能を実装することで投稿者が読者から直の反応を受け取れるシステムを追加導入するなど、常に機能改善・投稿しやすさの向上を目指しており、今後もさらなる追加機能が期待されます。


「ジャンプルーキー!」出身作家3名による座談会

「ジャンプルーキー!」投稿から「少年ジャンプ+」での連載を果たした小田原愛先生(代表作『LAND LOCK』など)成田成哲先生(『アビスレイジ』連載中)みつちよ丸先生(代表作『生者の行進』が登壇。デビューに至る経緯などさまざまな質問に対し赤裸々に語って下さいました。

―――「ジャンプルーキー!」に投稿してからデビューに至るまでの経緯は?

小田原愛先生(以下、小):「ジャンプルーキー!」に作品を投稿していく中で現在の担当編集に声をかけてもらったのがきっかけです。そこから連載用ネームを描いて、自ら出張編集部に持ち込みました。その場で担当編集に読んでもらい「いいと思います」と言って頂き、「少年ジャンプ+」での連載会議提出に向けて一緒にネームを詰め『魔喰のリース』での連載が決まりました。

成田成哲先生(以下、成):最初は他紙に作品を投稿していたのですが、「ジャンプルーキー!」の存在を知り仕組みなどに興味を持ち、「ルーキー!」に過去作品を投稿してみたんです。すると編集部からメールをもらいまして…正直、編集部からメールが来るのなんて都市伝説だと思っていたので驚きました。そこから一度実際に会って打ち合わせすることになり、そこで編集ととても気が合ったんです。なので他誌ではなく「ジャンプルーキー!」でデビューを目指そうと思いました。何度か「少年ジャンプ+」読切掲載には至ったのですが連載までには届かず、一時期掲載会議用に毎回2本ずつネームを送っていました。1本は自分が描きたい「格闘」マンガを。もう1本は流行を取り入れた作品を。多くのネームを切った結果、当時流行っていた「グルメ」に「マッチョ」を組み合わせた『マッチョグルメ』が生まれ連載に至りました。

みつちよ丸先生(以下、み):以前は海外で生活をしていたので「ジャンプルーキー!」という環境に制限されないマンガ投稿サービスが始まったのを知り、すぐに過去作などを投稿しました。2年程経った時に編集部から声をかけてもらい、この頃には日本に戻っていたので、担当編集と打ち合わせて「少年ジャンプ+連載グランプリ」(※1)での受賞を目標に作品制作が始まりました。当時はマンガを描くことに慣れておらずネームを4、5本提出し、その中の1つを修正し、受賞したのが『生者の行進』になります。
※1 「ジャンプルーキー!」で開催される「少年ジャンプ+」での連載&単行本化直結の漫画賞

―――初投稿から「少年ジャンプ+」掲載に至った期間は?

小:「ジャンプルーキー!」に投稿してから3ヶ月で編集部に声をかけて頂き、出張編集部に持ち込む用のネームづくりに1ヶ月程…そこから「少年ジャンプ+」連載会議用の作品づくりに1ヶ月程なのでざっくり半年くらいです。

成:初投稿から3ヶ月後には「少年ジャンプ+」掲載会議にネームを提出し、その翌月には掲載用原稿を描き始めていたので4ヶ月程です。

み:投稿から2年で「少年ジャンプ+連載グランプリ」を受賞し、連載準備期間に1年頂きました。

―――作品を投稿する際に意識した点は?

小:サムネイルはカラーにするよう心掛けていました。多くの作品がある中でとにかく自分の作品が「読者の目に留まる」にはどうするべきかを考え、連載前はサムネイルも工夫しかなり時間をかけて作っていました。

成:僕も小田原先生と同じで「読者の目に留まる」ことは重要だと思います。僕は閲覧数が高い作品をピックアップしてデータ化し、サムネイルの傾向や平日と休日での閲覧数の違い、あとは「いいジャン!」されやすい作品などを研究しました。

み:月末だと「月間ルーキー賞」(※2)のランキングがなんとなく固まってしまっているので、なるべく月初めに作品を投稿するようにしていました。でも一番大事なのは自分が描きたいものを全力で表現して、フィーリングの合う編集者と出会えることかなと思います。
※2 「ジャンプルーキー!」で毎月実施されるマンガ賞。選ばれた作品は賞のランクにより、ジャンプ各誌に掲載、もしくは掲載権が与えられる。

―――自身の体験をもとに新人作家さんへアドバイスを送るとしたら?

小:あえてみんなが避けがちな難しい題材に挑戦することが大事かなと思います。私も周りと比べてしまって、自分には個性が無いと悩んでいた時期もあったのですが、だったら誰かと比べられない題材を描こうと前向きに挑戦し続けました。それからやはり目立つことです。担当編集からの連絡を待ち続けるのではなく自ら持ち込みに行ったり、アポを取って直接打ち合わせをする機会をつくるなど、記憶に残るような行動をするのも一つの手だと思います。

成:自分の武器を明確にすることが大切かと思います。僕の場合は自分が得意な題材と世間のニーズをうまく擦り合わせることで「マッチョグルメ」にたどり着けたのですが、それは絵が得意な人であれば絵を、ストーリーならストーリーの質を高めることで頭一つ抜ける武器になるのかなと思います。

み:私は一番ネームに時間をかけていて、仕上がったネームを毎回10回以上読み返しています。最初から最後まで話が頭にスッと入るよう、とにかくセリフの配置を変更したり、キャラの向きを変えたり何度も調整を繰り返し、ペン入れに入るようにしています。

―――ネームが通らない時のモチベーションの保ち方は?

み:ネームが通らないと悔しいのはみんな同じで…。私が面白いと思うストライクゾーンと担当編集のストライクゾーンは違うと思うのですが、本当に売れる作品っていうのはどっちのストライクゾーンにもヒットするものだと思うんです。なので自分が面白いと思うものの中に担当編集にもヒットする要素を落とし込み、両者共に面白いと思える作品を目指します。あとは思い切ってネームを丸ごと捨てます。自分の描いたネームは愛着が湧いてしまって直したくないと思ってしまうので…。思い切って捨てて、分岐点から考え直します。

投稿者からの質問も交えつつ、作家3名の体験談など会場でしか聞けないようなマル秘エピソードもあり、とても貴重な時間となりました!


編集部員が語るデビュー作の傾向と強み

続いてのトークコーナーでは、編集者4名が登壇。
少年ジャンプ+編集部員の小池氏・玉田氏・榊原氏に加え、「週刊少年ジャンプ」で14年半編集を勤め現在はキャラクタービジネス室に在籍する齋藤氏がマンガ論を熱く語りました。


どんな作家に声をかけ、どんな作品を求めているか
まず語られたのは、日ごろから「ジャンプルーキー!」の投稿作品や持ち込み作品に目を通している4人が、どのような作家・作品に興味を持ち、担当したいと思うのか、そしてどんな作品を作っていきたいと思っているのかというお題に沿ってトーク。

小池氏は「個性を発揮している作品は魅力的に見えますね」と語り、作家としての自分の個性を落とし込むことで作品の個性を強め、さらにそれが読者に伝わるよう努力している作品ほどデビューにつながりやすいと話しました。さらに、投稿をためらってしまう人も多いと思うが、とにかくたくさんの作品を描いて投稿していくことで、読者や編集に見てもらい、コメントをもらうことで自分の作品を昇華させて欲しいと思いを述べました。

続く玉田氏は「演出力」、榊原氏は「ジャンルを意識する事」が大事であると話し、同じような題材でも演出による見せ方や、流行のジャンルを上手く取り入れることでヒット作が生み出せると述べました。

また、齋藤氏はビートたけしの「売れることはできるが、どう売れるかは選べない」という名言を引用し、自分の得意分野以外の作品も投稿して欲しいと話しました。これは、作家自身が得意だと思っているジャンルや強み以外のところに作家の長所があった場合、それを編集部員が見抜きヒット作品を生み出せる可能性があるからだといいます。


「ジャンプルーキー!」投稿作家から編集部員への質問!

続く編集者への質問コーナーでは、投稿作家たちから多くの質問が寄せられました。

Q.投稿してくる作家の年齢は気にしますか?

A.小池氏
個人的な意見としては、半分は気にして半分は気にしないです。皆さん、読者として面白い作品を読んだときに作者の年齢を気にしたことってありますでしょうか?ないと思いますが、それが気にしない理由です。年齢で面白さは変わりません。ただ、現在の実力に年齢は関係ありませんが、今プロ作家未満の実力でこれから伸びる必要がある新人作家には年齢は関係あります。スポーツや勉強、なんでもそうですが若い人の吸収力は高いです。編集としての経験で言っても、漫画においても若い人達の方が予想を上回って成長することが多い印象です。それが年齢を気にする理由です。即戦力なら年齢気にしませんし、そもそも聞きません。ただ、今一歩ならば年齢はやっぱり気になります。

Q.「少年ジャンプ+」では今どんな作品を求めているのでしょう?

A.玉田氏
エロのジャンルは安定して強いですが、いつ飽きられるかは分かりません。なので、人のやっていないこと、誰も描いていないジャンルを描いてもらいたいです。

Q.TwitterなどのSNSで作家を発掘する時、フォロワー数は多い方がいいのでしょうか?

A.齋藤氏
僕はフォロワーが多い人や、RT・いいねなどを多く稼いでいる人より、フォロワーが少ない人の方がいいです。
例えば、『悪魔のメムメムちゃんを「少年ジャンプ+」で連載している四谷啓太郎先生も、最初に知った時はフォロワー1000人に満たなかったと思います。そこで、まだ誰も声を掛けていないだろう。チャンスだ!と思って声を掛けましたね。あとは、『エンペラーといっしょ』を連載していたmato先生も1000人ちょっとくらいだったと思います。
フォロワーが多い人だと、他の出版社や媒体などから声が掛かっている可能性も高いため、自分の場合は逆に掛けづらくなっちゃいます。

時間の都合で質問コーナーは終了となりましたが、投稿者が編集部員に質問したいことは非常に多いようで、その後の編集部見学や交流会でも盛んに編集部員への質問が飛び交っていました。一部の質問と編集部員の答えを列挙していきます。

Q.WEBだとギャグマンガは受け入れられにくいのでしょうか?

A.玉田氏
そうとは限らないと思います。また、WEBと紙の雑誌、両方狙う作家さんもいます。
例としては元々「少年ジャンプ+」で『剥き出しの白鳥』を連載していた鳩胸つるん先生も「少年ジャンプ+」では閲覧数も多く、読者にも好かれていたんです。でも、そろそろ次のステージに上がりたいよね、という話を先生として「週刊少年ジャンプ」での連載開始を目指そうと決めました。そんな経緯を経て、最近『ミタマセキュ霊ティ』の連載が始まったという感じです。

Q.「少年ジャンプ+」は、他のマンガアプリに比べて読切作品が多いイメージですが、なぜなのでしょうか?

A.小池氏
作家さん・読者さん、両方にとって得だと思って掲載しています。読切は作品自体や作家さんの作家性を読者に試す大事な機会です。「読切なんて遠回り」とお考えになる作家さんもいるかもしれないですが、連載は作家さんにとっても時間的労力的コストが高いので、試すことは非常にコスパが良いと考えます。その得は読者にもそのまま波及します。一方、読切作品はコミックスが発売されないので、出版社の直接的な儲けにはなりません。だから、他のWEBメディア、特に出版社系以外の漫画アプリだと読切が少ない傾向があるのですが、上記の通り作品を研磨し作家さんに成長してもらう機会を作るという意味で長い目では出版社にも得だと思ってます。なので、なるべく多くの読切作品を掲載するようにしています。言い換えると、他のアプリに比べて読切作品が多いなら、作家さんに一番「投資」しているアプリはジャンプ+とも言えるかもしれません。


ジャンプ編集部見学!

座談会後、編集部員案内のもとジャンプ編集部へ。
初めて訪れた投稿者たちの中には『バクマン。』(大場つぐみ先生/小畑健先生)で実際に描かれていた風景そのままだと感動している姿も。
編集者の主な仕事内容の紹介や、現役連載作家とのこぼれ話、他にも投稿者からのさまざまな疑問に答えながら編集部見学となりました。


連載作品の生原稿が目の前に!

見学の途中には、「少年ジャンプ+」にて連載中の『青のフラッグ』(KAITO先生)と『群青にサイレン』(桃栗みかん先生)の生原稿を間近で見ることができる場が設けられました。作家直筆の指示やメモ、ウラ面に描かれたアタリなど、生原稿ならではのリアルさを体感。投稿者たちはその繊細で迫力ある筆致に魅入られていました。


イベントの終盤には交流会&原稿の持ち込みも!

編集部見学後は立食形式での交流会が開かれ、投稿者同士はもちろん、作家や編集部員、運営など参加者全員が自由に交流を深めました。
投稿者が編集部員や作家と気軽にコミュニケーションをとれるのもリアルイベントならでは。

また、交流会では投稿者が自由にイラストを描けるボードも設置され、イベントの盛況を表す記念の寄せ書きが完成しました。

さらに原稿持ち込みの場(事前予約制)も設けられ、多くの投稿者が自身の作品を編集者に持ち込んでいました。顔をつきあわせての打ち合わせは、編集者からのリアクションやアドバイスを直に得ることができる貴重な機会。中には今回が初の持ち込みで担当編集がついた投稿者の姿も!


最後は「少年ジャンプ+」編集長・細野修平より投稿者へのお礼と激励の言葉で会は締められ、「ジャンプルーキー!」初のリアルイベントは大盛況のうちに終了しました。


「デリバリーおじさん」の岡悠先生・青野てる坊先生がイベントの様子を突撃レポート!

「デリバリーおじさん」の作者がジャンプルーキー!イベントにデリバリーされた話。

当日の様子や参加者の感想などはTwitterでも見ることができます。


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