【第58回】漫画の奥深さを100倍感じる!漫画家志望者におすすめしたい傑作「連載第一話」3選!!

 皆様、こんにちは。
今回のルーキーブログを担当させていただくジャンプ+編集の小池均です。

 今回のルーキーブログのテーマはズバリ
 【漫画の奥深さを100倍感じる!漫画家志望者におすすめしたい傑作「連載第一話」3選!!】
 です。

 編集者の私は無類の漫画好きでもあります。ありがたくも子供の頃から素晴らしい漫画家さん達の傑作漫画を読みながら育ちましたが、今回はその中から私的に『読切や連載第一話作りに悩む漫画家志望者に読んで欲しい漫画』という観点で3作品を紹介させて戴きます。
 ※今回記するのは「ジャンプ編集部に脈々と伝わる意見」ではなく、あくまで小池個人の独断と偏見です。

 早速お品書きです。

 ① 『アイシールド21』…魅力的に整理整頓された情報の波状攻撃!な第一話
 ② 『プラネテス』…読者の脳内を使え!無限大の余白!な第一話
 ③ 『ドロヘドロ』…オリジナリティの美味なるカオス!な第一話

 参考にすべき素晴らしい第一話は数多あります。今回は皆さんに説明しやすくするために隠れた名作というよりは、誰もが1度は読んだことがあるようなTVアニメ化も果たしていて少なくとも絶対に名前を1度は耳にしたことがあるような超有名3作を改めて紹介します。
 昨今は公式HPや電子書店で1話目の試し読みが出来る場合が多い素晴らしい時代です。今回私も全力で利用させていただきます。
 志望者の方はこの3作に限らず片っ端から読んで、唸ってください。凄い漫画は凄い。凄すぎる。


【アイシールド21】原作:稲垣理一郎 漫画:村田雄介
購入はこちら
第一話目を読む

<あらすじ>
 泥門高校1年・小早川瀬那。気弱な性格が災いし、幼き頃よりパシリ人生を送ってきた。だがそのおかげで(?)ズバ抜けた俊足を持つ瀬那は、悪魔のごとき男・ヒル魔によりアメフト部へと引きずり込まれるが!?(ジャンプBOOKストア!より抜粋)

 とりあえず皆さま上のリンクから第一話をご一読下さい。

 …読みましたでしょうか?
 「2話目が読みたくてたまらん」な方はどうぞこのページは忘れてください。全37巻絶賛発売中です!

 正直お品書きの一言紹介でほとんど伝わった気もしますが、改めて紹介します。

 漫画家志望者さんは日夜連載の第一話や読切に頭を悩ませていると思います。その時に「情報は少なくしよう」とか「キャラは少ない方が回しやすいよ」みたいな編集との打ち合わせがよくあります。勿論、これは間違っておりません。
 漫画歴が短い新人さんだと、①主人公 ②ヒロイン ③敵の3属性のキャラで回し、設定も「良い意味で分かりやすく読者にとって馴染みがあるものにしよう」というのが基本になります。
 その点で「アイシールド21」を読むと『規格外』なことがすぐお分かりになると思います。
 キャラクタ―は大別して5属性もあります。①主人公のセナ ②ヒロインのまもり ③強引な先輩のヒル魔 ④穏健(ヒル魔をたしなめる)な先輩の栗田 ⑤敵(不良)の3兄弟
 更に、題材は「アメフト」という日本人にとってどうしても馴染みの薄い題材です。これは言い換えるとどうしても「分かりにくい題材」とも言えてしまいます。

 ですが、皆さん読んでみていかがだったでしょうか?分かりにくかったでしょうか?
 私は美しさに震えます。
 個人的に考えるキモは魅力的な情報の整理整頓です。
 ・アメフトはパワー、タクティクス、スピードの3要素のスペシャリストのスポーツという視点を読者に提示
 ・その3要素のアイコンとしてのキャラクター3人(セナ、ヒル魔、栗田)
 一番大きい整頓はこれですが、細かい整頓は微に入り細に入ります。更に整頓したうえで、3キャラを印象的に魅力的に立たせています。特にセナは序盤親しみやすくクライマックスでは熱くなる印象ですし、ヒル魔は一度見たら忘れられない強烈さです。
 以上を「気弱な小市民でパシリばかりの少年はその足を買われて、アメフトのヒーローへの第一歩を踏む」というストーリーラインに乗せています。<アメフト>を<日本>の<少年漫画>で魅せるということの難易度の高さを、キャラの魅力と徹底的な情報の整理整頓と適切な提示で成立させています。
 そこに超絶画力の村田先生によるキャラクターの絵の魅力、アクションの迫力などが全ての要素に掛け算となって更に上の領域の傑作になっています。

 「情報が多い第一話や読切はなるべく避ける」というのが常套手段であることは変わりません。ただ、そこを「情報の多さや馴染みの薄さを、工夫や魅力で乗り越える」という背中をアイシールド21の第一話は見せてくれます。
 皆さんも自分の描こうとしている題材の切り口を分析してみたり、キャラクターの配置を弄ってみたりすることで、「それまで入りきらなかった設定やキャラクターが、ストンと面白く収まる」かもしれません。


【プラネテス】著:幸村誠
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<あらすじ>
 しがないデブリ(宇宙廃棄物)回収船に乗り組むハチマキは、大きな夢を持ちつつも、貧相な現実と不安定な自分に抗いきれずにいる。同僚のユーリは、喪った妻の思い出に後ろ髪を引かれ、自分の未来を探せずにいる。前世紀から続く大気の底の問題は未解決のままで、先進各国はその権勢を成層圏の外まで及ぼしている。人類はその腕を成層圏の外側にまで伸ばした。しかし、生きることーーその強さも弱さも何も変わらなかった。(コミックDAYSより抜粋)

 続きまして2作品目です。こちらもまず第一話目をお読みください。

 重厚な雰囲気、感動するストーリーな第一話ですが、今回注目する所はちょっと違います。
 漫画家志望者の皆さん、お気づきでしょうか…。
 なんとこの第一話、ページ数が46ページです…。46P。しかも大ゴマもふんだんに使い、最後のページは真ん中にコマ一つ!
 私はプラネテスの第一話のページ数を何気なく数えて、「よ、46??80とか100ページじゃなくて?46」と仰け反った日の衝撃を忘れません。

 個人的な分析としては、「余白の巧みさ」が凄さです。背景やキャラクターの表情からくる想像が読者の脳内で増大して、具体的なセリフや説明モノローグ以上の「物語」を読者に植えつけます。勿論それは幸村先生の意図通りの物語なのですが、「1を見て10を感じる」の如く、少ないページで、コマで、キャラクター描写で雄弁に語ります。
 ハチマキやフィー(女船長)の言動や背景描写からは近未来の「日常物語」を匂わせますし、特にユーリの目は読者に「彼はどんな気持ちなのか」を100の言葉より想像させます。
 更にここまでミニマムな描写量でありつつも、実はエンディングに向かって更にどんどん余白が贅沢になっていきます。44-45ページの見開きはもはや無限。宇宙を感じます。
 
 アイシールド21では「魅力的な徹底整理で情報を提示しきる形」したが、こちらは逆に「ポイントを絞りきって紙面ではなく読者の頭に最高の完成形を描く形」です。
 「物語の奥行きを漫画内で語りきるのでなく、読者の頭の中の無限の宇宙を使う」というのもまた別の魅力的な第一話・読切の答えではないでしょうか。
 皆さんが描いている作品も「全てを語りきれない」となったら逆に「語りきるのではなく想像させる」ことで漫画が読みやすく魅力的になるかもしれません。


【ドロヘドロ】著:林田球
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<あらすじ>
 自分を醜い姿に変えた、憎むべき「魔法使い」を頭からバックリ!! 口の中にもう一人の人間を住まわせた謎の異形の男・カイマン。魔法使いたちに姿を変えられた時に記憶を失い、いまはただ連中を狩る日々を過ごしている。「口の中の男」が犯人を言い当て、元の姿に還れるその日まで…(SHOGAKUKAN COMICより抜粋)

 最後の3作品目はこちらです。第一話のご一読を。

 今回は皆さんの感想こそが答えです。
 あらすじからも一目瞭然。漫画のジャンルを「ほのぼのスプラッタ」「ラブ&バイオレンス」という唯一無二で評されるオリジナリティにあふれた傑作。既存の言葉では魅力を表現しきれない、他の漫画では決して味わえない中毒性がある作品です。
 正直こちらは1話だけじゃなく、1巻丸々とか全巻購入とかで味わって戴きたいのですが、前2作とは違う形の傑作として皆さんに紹介したいので並ばせていただきました。
 
 漫画家志望者の方々は日々「面白いとは?」「良い漫画を描くにはどうすればいいのか?」という事に向き合って鍛錬していると思います。「アイシールド21」と「プラネテス」はその筋道のひとつを見せてくれる様な傑作です。
 ただ、忘れてはいけないのは「結局、理屈は置いといて面白ければ勝ち」「分析は面白いorつまらないという感想の後に来るもの」という事です。「そのアクの強さが苦手な人が仮にいたとしても、一方面白いと買ってくれる人が数多くいれば商業漫画として大成功」です。
 その点で私にとっての傑作はこの「ドロヘドロ」です。大学時代に仙台の喜久屋書店で1巻試し読みを読み終わった瞬間にトカゲ触りの大型コミックスをまとめてレジに持って行ったことを思い出します。

 面白くするための手段は目の前の自分の作品に納得いかない時に使う『道具』でしかありません。これが「面白いんだ!」「絶対いいでしょ!」という情熱があるならば、まずは道具は置いといてそれを原稿用紙に叩きつけて欲しいです。
 その上で、読者や第三者の評価を真摯に受け止めるのがプロ作家でもありますが、悩んでいる方がいたら思い切りの良さも答えに繋がるかもしれません。


 以上、第一話・読切作りに悩んでいる漫画家志望の皆さんの役に少しでも立てればと願っております。
 今回の3作の紹介も1つの視点からの概要比較で終わったので正直語り足りないですが、各作の奥深さや別の観点からの紐解きは、読んだ皆さんの視点でして戴ければ幸いです。この3作品の素晴らしさは4000字程度の今回のブログでは収まりません…。

(文責:少年ジャンプ+ 小池均)


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