【第62回】累計6億部以上!『ONE PIECE』『BLEACH』など大ヒット作の立ち上げ編集・浅田貴典が語る漫画話

2020年2月9日(日)、東京ビッグサイトにて行われた同人誌即売会「コミティア131」の「ジャンプルーキー!/ジャンプPAINT」ブースにて、『ONE PIECE』『BLEACH』『アイシールド21』などを立ち上げた編集者・浅田貴典による講演が行われました。「Twitterや会場で質問を募り、漫画編集の裏側を赤裸々に明かす」という趣旨で展開された講演のレポートを、皆さまにもお届けします!

集英社 第3編集部部次長 浅田貴典
イラスト:松井優征

集英社に入社後、週刊少年ジャンプ編集部、ジャンプSQ.編集部、JUMP jBOOKS編集部、キャラクタービジネス室を経て、現職。初代担当作品:『ONE PIECE』『BLEACH』『アイシールド21』『Mr.FULLSWING』『血界戦線』など。


■Part 1/作品作りの秘訣

浅田:初めまして。集英社の浅田と申します。漫画の編集部から小説、ライツ、デジタルなど色々な仕事を経験してきました。これからお話することは昔の方法論かも知れませんが、漫画を描かれる方の参考になることがあれば、ぜひ持っていって下さい。

司会・伊藤拓哉(「少年ジャンプ+」編集部):早速ですが、本日は浅田さんが考える作品作り、編集者の付き合い方などについて伺っていきます。事前にTwitterで質問を受け付けていたので、まずはそちらにお答え下さい。


【質問】「久保帯人先生の『BLEACH』のような作品を描くにはどうすればいいですか?」

浅田:いやぁ(笑)、いきなり難しい質問ですね。参考になるかどうか分かりませんが…例えば『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生は、鳥山明先生の影響を多分に受けられた方です。ただ尾田先生は『DRAGON BALL』をそのまま研究するのではなく、鳥山先生が影響を受けた作品に遡って勉強されたそうです。なので質問された方が『BLEACH』みたいな作品を描きたいなら、まずは自分が『BLEACH』のどこが好きなのかを考えるといいかもしれませんね。久保先生は色々な魅力を持つ作家さんですが、その中でもどこに一番惹かれるのか。キャラクターデザインのセンスだったり、リリカルな言葉遣いだったり、技を出した時の見栄を切る演出だったり。久保先生の一番好きな部分を意識して、自分が本当に好きなものを考えてみて下さい。その上で、インスタグラムを見るのか、詩を読むのか、色んな作品の演出アイデアを注目するか、やり方はいくらでもあるかと思います。

【魅力を感じるポイントは人によって千差万別。まず、自分の「好き」を探そう。】

伊藤:自分の嗜好を理解し直すということですね。

浅田:漫画家を志す方は、好きな作品をとにかく細かく読み込んだ方が良いかと思います。漫画は多くの要素の組み合わせなので、その中で自分は言葉が好きなのか、キャラクターが好きなのか…とか。「作品のここが好きで、それを見ていると嬉しい感情が湧いてくる」と自覚できるようになるといいですね。さらに言うと「好き」だけではなく「こんな演出があると不安になる」「この表現はなぜかムカつく」とか、何を見ると自分の感情がどう動くのか知ることが大切なのでは、と。


【質問】「『ONE PIECE』も『BLEACH』も台詞が心に残る「台詞が強い」作品です。台詞の力をつけるにはどうすればいいですか?」

浅田:難しい質問が続きますね(笑)。

伊藤:私も編集者として「頑張って色々な作品を研究してみてください」と参考になる作品をお渡ししたりすることが多いのですが、もっといいアドバイスがないか気になります。

浅田:例えばスポーツ選手が試合で発揮する力は、それまでに積み重ねてきた練習量によるものです。作品作りも同様に一朝一夕で言葉の力がつくことはありません。先程の話に通じますが、小説でも漫画でもTwitterでも、言葉によって心が動かされた経験が必ずあるはずです。その「この言葉を受け取った時、自分はこういう感情になる」ということを自覚することから始めた方がいいと思います。
もう一つは、その言葉が作中でどう使われるかの掘り下げです。例えば「愛している」という台詞がある時、それを言ったのは大好きな異性なのか、後輩なのか、ずっと憎んできた敵なのか。そして口調や言われるシチュエーションで、同じ「愛している」でも全然印象が変わってきます。さらには「自分だったらこんな風に“愛している”と言われたら、絶対に惚れちゃう!」という妄想までできれば完璧です。つまり「言葉が強い」作家さんは、「キャラクターにこう言われたら、自分はこう感じる」という意識というか、感情というかが、常人よりも強いんじゃないでしょうか。

【『ONE PIECE』574話でのエースの言葉。シチュエーションによって言葉の受け取られ方は大きく変化する。】

伊藤:台詞も作品に入り込んで考えるということですね。

浅田:作家さんだったら、まず作品に入り込めないことはありません。それでも「今ひとつ言葉が弱いなぁ…」と言われるのであれば、表現の仕方が拙いのかもしれません。感情の総量が足りないなら、もっともっと「好き」「嫌い」をつきつめた方が良いと思います。


【質問】「編集者に“もっとキャラクターを立てて強くして”と言われます。強いキャラクターはどう作ればいいのでしょうか?」

伊藤:これもよく聞く悩みですね。キャラクターの作り方というか…。

浅田:僕はよく「キャラクターは“作る”より“ずらす”方が100倍楽」とお伝えしています。例えば高橋留美子先生の『うる星やつら』『らんま1/2』という作品があります。『うる星やつら』の諸星あたると『らんま1/2』の八宝斎は、考え方や行動というキャラクター性だけ抽出すればかなり同じです。一方は高校生の主人公でもう一方はお爺さんですが、どちらも可愛い女の子がいると飛びつかずにはいられないキャラクターですね。年齢や立場、能力、周囲との関係性を変えるだけで、その印象は様々に変わるんです。
これは企画性にも言えて、『北斗の拳』とか良い例ですよね。あの作品には様々な魅力が組合わされています。池上遼一先生の『愛と誠』みたいな物語要素だったり、映画『マッドマックス』の世界観だったり、アーノルド・シュワルツェネッガーのようなマッチョなキャラクターだったり、ブルース・リーのような東洋の拳法を盛り込んだり…。だからといって『北斗の拳』が他の作品の寄せ集めかというとそんなことはまったくなく、多くの人の心を打つ作品に昇華されています。それはやっぱり武論尊先生の言葉、原哲夫先生のキャラの表情、絵柄の説得力という、作者の個性が強いからですよね。作家先生が「本当に好き、カッコイイ!」という部分が出ているんだと思います。

伊藤:本当に好きなものでないと取り入れても効果がないんですね。

浅田:ええ。種をどこから取るかということです。それは漫画でも小説でも映画でもゲームでもいいんです。現実の人物・出来事から着想を得てもいい。いっそ伊藤さんからキャラクターを作ってもいいんです。伊藤さんのキャラクター性を取り出して、ビジュアルを女の子にして、しかも萌えキャラにして…という風にずらしたりして(笑)。

伊藤:ブラッククローバー』の田畠裕基先生も、先輩をモデルにして団長のヤミを考えられたそうです。モデルを置いて、そこから変えていくという作家さんは多いのかも知れませんね。

浅田:この作り方は敵役でも良い。誰にでも1人くらい「あいつだけは絶対に許せない!」みたいな嫌いな人がいるじゃないですか。そういう人を自分の漫画の中で、けちょんけちょんにしてやりましょう。そっちの方が面白くなります。


【質問】「浅田さんが担当された新人時代の尾田栄一郎先生は、他の作家さんと比べてどこがすごかったですか?」

伊藤:当時からプロ意識がすごかったというお話はよく聞きますが…。

浅田:尾田先生はあらゆる面ですごい作家さんですが、僕が特に感じたのは、成長のためにご自身のステージを強く意識されていた点です。新人時代から自分を客観視して、「この能力を鍛えるために、今はこれをやるんだ!」と明確に意識されていたというか。尾田先生の中に、尾田先生を導くコーチが同居している感じでしょうか。

伊藤:「カラーを鍛えるためにカラーイラストを描くんだ」「キャラデザを鍛えるためにキャラクターを描くんだ」とか?

浅田:それこそ「少年ジャンプ+」の僕のエッセイインタビューでも言いましたよね。「連載になった時に、カラー原稿を描く機会が増えるから、その時のためにクオリティを上げたり、スピードを早めるために、カラーイラストの習作を描いておこう」とか。新情報でなくて申し訳ありません!


【質問】「一番効率のいい、画力の向上方法を教えて下さい」

浅田:ええ~(困惑)。それって絵が描けない編集者に言われて信用します?…なのでそこは差し引いて頂きたいのですが、まず「漫画において“上手い絵”とはどんな絵なのか」ということを考えたいです。一般的に「上手い」とされる漫画の絵は、線が多くて細部まで描かれている「精緻で画面の密度が高い」ものが多いですよね。実際にそういった絵は魅力的で、コミックスの売り上げにも影響してきます。
でも、漫画は絵だけで成立するものではありません。例えば『ボボボーボ・ボーボボ』の澤井啓夫先生の絵は精緻とは対極の印象ですが、作品として最大級に上手い絵だと僕は思っています。というのも澤井先生は『ボーボボ』のネームの面白さを表現するために、敢えて小学生が真似しやすいキャラクターデザインにして、絵も勢いを出すために乱雑にしています。そしてその絵があるからこそ『ボーボボ』は面白い、つまり漫画として最大限に上手い絵と言えるんです。

【第1話ボーボボの登場シーン。一目見て頭に残るキャラクターデザインと画面の勢いがある。】

そこで先程の「画力を上げるには」という質問に戻ると、「では、どういったネームを描きたいのか?」ということに立ち返ります。「女の子が可愛いラブコメ」を描きたいのであれば、女の子の表情が魅力的に表現できて、顔以外にもうなじの色気とか、シャツの隙間から覗く脇とか、座った時にちょっと崩れる太ももとか…僕の趣味ばかりで申し訳ないですが(笑)…自分のフェチにも気を使うべきでしょう。つまり「この作品を描きたいから、この演出が必要で、そのためにこの絵を描けるように練習をする」と逆算で考えるべきです。
その上で僕が練習として一番効果的だと考えるのが、自分が理想とする漫画ページの模写です。その際、コマ割も背景もフキダシも全部きちんと模写して下さい。そして「なんでこのキャラクターはこっち向きなのか、なんでフキダシがここにあるのか」とか、作家の意図を汲み取りながら描くんです。そうするとだんだん、ページに凝らされている工夫が自分の力になっていくと思います。

伊藤:台詞作りもキャラクター作りにも通じますね。観察して掘り下げて、それを自分のものにするということですね。

浅田:漫画には「たまたまこの絵になった」という偶然の絵作りはありません。カメラをどこから向けるか、どこにキャラクターを置くか、どこに台詞を置くか…と、すべて作家が考えて描くものです。
もっと言うとキャラクターデザインだって、そのお話で活躍させるためにはどんなビジュアルで、どんな佇まいで、どんな表情を見せるのか…とか、全部逆算から生まれています。漫画は作家がすべてを支配するメディアだからこそ、そこに意味や意図を込めて作ることが大切です。だから漫画に限らず他の作品を見たら、作った人の意図を汲み取ろうとして、そこで生まれた自分の気持ちを大切にして欲しいです。
たぶん成長するための秘訣って「何をお手本にするか」「その中から何をくみとるか」だと思います。そして、何をお手本にするかは、当人の「何となく好き」が大切なんじゃないでしょうか。
僕は何かに迷った時は「理由は分からないけれど、こっちの方が気になる!」と思った方を選ぶようにしています。「何か気になる」とは、過去からの経験が「こっちを選べ」と言っていることなんですよ。その上で「自分はこれのどこが気になるのか?」をひたすら突き詰めます。正しいとか間違っているとかは関係なく、自分に腹落ちする言葉が出てくればいい。これは作家さんも編集者もそうですが、「なぜこれが気になるのか、自分に納得できるように説明できる」ことが重要だと思っています。


■Part 2/編集者との関わり方

伊藤:では次に、会場の皆さんからの質問にお答えします。どなたかいらっしゃいますか?

【質問】「作品を持ち込んだ時、編集者は漫画家とどんな話をしていますか?」

浅田:作家さんによってバラバラです(笑)。ただ僕が心掛けているのは、作家さんにきちんと「このネームのここが好き」と伝えることです。それは特定のキャラクターの表情だったり、どこかの台詞だったり、作品のアイデアであるかも知れない。とにかく、好きになったものはどんなに細かいものでも、きちんと伝えるようにしています。とはいえそれ以外は、やっぱり作家さんによって違いますね。細かく伝えた方が成長する人もいれば、言うことを聞きすぎて小さくまとまってしまう人もいますし。…すいません、あまり答えになっていないですね。


【質問】「作品に携わることで編集者にも作品を作る能力が蓄積されていくと思いますが、浅田さんは漫画原作者になることを考えたことはありますか?」

浅田:編集者上がりの原作者さんはたまにいらっしゃって、浦沢直樹先生を担当された長崎尚志さんが有名ですよね。ただそれは個人個人のタイプによるもので、僕自身で言えば、まったくなれる気がしましせん(笑)。僕はどちらかというと「この作家さんすごい!」と仰ぎ見て、「こうなってくれたらもっと好き!」と…あくまで売り上げが上がることが前提ですが…作品を、より応援したいと考えるタイプです。

伊藤:ゼロから1を生み出すことが好きな人もいれば、1あるものを100まで持っていくことが好きな人もいますよね。ちなみに浅田さんが作品の企画やキャラクターなど、「これは自分がゼロから考えた」というものはありますか?

浅田:ないないない!全然ないです。そういうことは一切できる気がしない。世の中にはシングルタスク向きの人間とマルチタスク向きの人間がいますが、僕は編集者にあるまじき超シングルタスクの人間です。仮に編集をしながら自分で企画を考えたら、他の仕事がガタガタになってしまいます。絶対やれないです。


【質問】「編集者には様々なタイプがいますが、どんな編集者と付き合うべきですか?」

浅田:これは正直、その作家さんのライフプランによると思います。アマチュアの世界でスケジュールを気にせず納得のいく作品を描きたい方もいれば、他の仕事をしながらSNSで作品を発表したい方もいるし、商業でバリバリ描いて何億円も稼ぎたい方もいます。その上で個人的な意見ですが、まずは作品を見せて、それを好きだと言ってくれる編集者と付き合うべきだと思います。

伊藤:好みが一緒だったり自分の持ち味を分かってくれる編集者の方が、より作品を向上できるということですね。

浅田:「あなたの作品のここが好き!」ということを、きちんと腹落ちできる言葉にしてくれたり、作品にとって有益な意見を出してくれる人がいいですね。そもそも「あれが駄目、これが駄目」とずっと言われたら、まず気持ちがもたないですし。
あとは編集部のカラーで決めるという手もあります。このコミティアの会場にも多くの編集部が出張していますが、本当に色々な雑誌がありますよね。「この編集部は自分と同じカラーだから馴染めそう」「この編集部には自分のカラーがないから、逆に重宝されるかも」とか。


【質問】「複数の編集者から意見をもらうことがありますが、皆バラバラでどれを聞けばいいのか分からないです」

浅田:編集者によって考えが違うこともあるので、誰が正しいのか分からなくなることはありますが…僕はそれは作家さんの覚悟の問題だと思っています。編集者がどんなアドバイスをしようと、受け入れるのは間違いなく作家さんです。「俺は覚悟をもってこの意見を受け入れる!」ということは、逆に言えば「だから成功しても担当編集のお陰ではなく、受け入れた自分の手柄だ」ということです。異なる意見がいくつ出ようと、自分がいいと思うものを自分の覚悟で受け入れる。そして成功したら自分の功績である…と振る舞うべきです。とはいえ「こいつの言うことも聞いておかないと、ネームが通らないんだよなぁ…」という現実的な問題もあるかも知れませんので、キレイ事寄りの意見ではあります。


■Part 3/紙とデジタル…多様化する漫画界

伊藤:今、我々がいるコミティアもそうですが、同人誌即売会やネットなど、近年は漫画を発表する場がたくさんあります。商業誌で連載するメリットとは何でしょう?…と、僕が聞くのもおかしな話ですが。

浅田:いやいや、おかしいでしょう(笑)。…えーと、僕が考える商業誌のメリットを挙げてみます。
まずは担当編集が作品作りに携わる点です。僕は作家さんのネームに意見する時、重大な責任を感じています。僕の発言で作品が変わり、作家さんの人生も変えてしまう可能性があるからです。なので作家さんの「こんな作品にしたい」という方向性があり、僕から見て「こうした方が売れるのでは」という意見もあり、両者を結んだ点を、僕たちが目指す地点とします。そこに向けて作家さんにアドバイスするのですが、その言葉はできるだけエビデンス(証拠)に基づくように心掛けたい。
僕は作品を「自分が好きなもの」「自分が嫌いなもの」と、「売れているもの」「売れていないもの」の2×2の組み合わせで見ています。「自分が好きで売れている」作品は最高!「自分は嫌いで売れていない」作品もまあ、理解できます。一番気を付けているのが「自分は好きだけれど、売れていない」作品で、こういったケースこそ客観的なエビデンスが重要です。好きなのに上手くいっていないからこそ、アンケートの順位や売り上げといった数字のデータを元に、説得力のあるアドバイスを考えないといけない。そして版元にいるから、大量のデータを持つことができます。さらに版元の編集は自分の担当作品だけでなく、色んな作品のアンケートや売上げの結果に基づいてエビデンスが蓄積されて鍛えられるので、作家さんにより有益な言葉を発することができると思います。エビデンス抜きの言葉は、感想としてはアリですけど、助言としては精度が低いと考えてます。
あと商業誌の利点として宣伝があります。SNSで個人的に宣伝されている作家さんも多いですが、世の中に気づいてもらうことは大変ですよね。出版社には宣伝部や販売部があり、その部分を請け負えます。書店さんとのキャンペーンとか、個人ではほぼ不可能なことも実現できます。あと版権管理もありますね。一つの作品が成立した際はグッズ化や映像化、デジタル展開など、より多くのリターンを作家さんにお渡しすることができます。


【質問】「今の時代、web連載と雑誌連載はどちらが良いですか?」

浅田:え~…、作家さんによるとしか(笑)。

伊藤:web雑誌の編集として言わせて頂きますと、「少年ジャンプ+」はページ数も掲載ペースも自由に調整できる点が強みですね。紙媒体だとページ数や刊行ペースが決まっているので。逆に紙媒体は掲載に制限があるからこそ作品同士の競争が激しく、その分鍛えられるという面もありますね。

浅田:これも作家さんの人生設計次第ですね。それ以外で敢えて分けるとしたら、誌面の大きさでしょうか。例えば「少年ジャンプ+」はユーザーの環境によりますが、スマホの小さい画面で読む方が多いですよね。そうなるとスマホの画角で作品が生きるネームが有利となります。逆にB5判の雑誌で最大限に魅力が出る作品もありますよね。例えば三浦建太郎先生の『ベルセルク』が最初からスマホ連載だったりしたら、あの絵がもったいないじゃないですか!

伊藤:確かに!僕らは生原稿を手にすることが多いですが、読者の目に触れるのはスマホの画面かと思うと、もったいなく感じることは多々あります。例えば『群青にサイレン』の桃栗みかん先生の生原稿って無茶苦茶綺麗なんですよ!

浅田:ああ、桃栗先生の原稿の美しさはドン引きするくらいですね。上手い作家さんのアナログ原稿は「人間はこんなにも綺麗な線を引けるのか!」と驚かされます。アナログもデジタルもそれぞれ持ち味がありますが、原画は実際に手に取ると本当にすごいんですよ!

伊藤:こればかりは担当編集だけの特権ですよね。

【『群青にサイレン』の生原稿。一つ一つの線が美しく、見る者を魅了する。】


【質問】「「りぼん」連載作品『さよならミニスカート』が「少年ジャンプ+」でも掲載されていますが、編集部間での作家や作品の横断はよくあるのですか?」

伊藤:さよならミニスカート』は「少年ジャンプ+」読者にも刺さる作品だと思うので、編集長同士や作家担当が相談して掲載することになりました。こういった横断は最近特に活発になっている印象がありますね。

浅田:僕個人の意見ですが、現在は少年漫画・少女漫画・青年漫画…といったジャンルが大分曖昧になってきた印象があります。それはデータ分析の面でも表れてきて、かつてのような年齢・性別のリサーチ以上に、web上での行動・動態(どこのリンクからきたか、他にどんなサイトを見ているか、など)を重視して、それによってサービスを考えることが主流になっています。例えば『さよならミニスカート』が好きな読者が、13歳女子も26歳男子でもそれぞれがお客さんです。今、集英社には複数のデジタル媒体がありますが、そこに集まるお客さんを分析して、それぞれに受け入れられる作品を組んでいくというのが今の流れだと思います。

伊藤:「少年ジャンプ+」編集者は「週刊少年ジャンプ」に担当を持つこともあるし、逆に「週刊少年ジャンプ」編集者が「少年ジャンプ+」に担当を持つこともあります。雑誌間の交流は、昔以上に柔軟になっていると思います。

浅田:だからといって雑誌編集部の意義がなくなったわけではなく、雑誌が一つのカラーを作っていることは間違いありません。作家さんや編集者によって「このカラーの場で連載したい」「敢えてこのカラーで逆のことをやってやる」と考えは様々ですが、雑誌で培われてきた哲学が作品を作る指針にもなっている。そういう意味では、雑誌の存在意義は今後もあり続けるのではないでしょうか。

伊藤:それでは時間となりましたので、本日の講演を終了させて頂きます。お集まり下さったみなさん、ありがとうございました!

浅田:ありがとうございました。これからも宜しくお願いします!


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