【第57回】漫画描き始めの作家が読んだら役立つ本3選

こんにちは あるいは こんばんは。少年ジャンプ+編集部の林士平です。
担当作品は少年ジャンプ+で『SPY×FAMILY』『HEART GEAR』『ドリキャン!!』『ムーンランド』『彼女と彼』
週刊少年ジャンプで、『チェンソーマン』を担当させて頂いております。

僕は漫画が大好きです。沢山、面白い漫画を読みたいから、多くの方々が、漫画家を目指してくれたら嬉しいな、と思って編集者人生を送っております。

この記事が少しでも漫画家志望者の方々のお役にたてば、幸いです。

さて、今まで僕が漫画家さんを担当してきて、新人時代から売れっ子までたどり着いた漫画家さん達と打合せをしてきて、とある共通している点があることを、知りました。
何だか、分かるでしょうか?


それは、
「賞、読切作品、連載、どの段階でも、
 ずっと変化(成長)し続けていること」
です。


描ける絵が増え続けて、描ける物語の引き出しが増え続けて、扱える感情のパターンが増え続けたら、いつか必ず、賞、読切掲載、連載獲得、に辿り着きます。

では、人が変化・成長するためには必要なこととはなんでしょうか?

人が変わるには、以下の3つの方法しかない、と僕は考えます。

・付き合う人間を変える
・住む場所を変える
・見るものを変える

この中で一番、心のハードルが低いのが、
「見るもの」を変えること、
でしょう。

同じような作品を描き続けていると、どこかしらの壁にぶち当たって止まってしまうことが多く、漫画家を目指すこと自体を辞めてしまう人も少なくありません。

漫画家を、目指す人は、常に変化成長をし続ければ、必ず、賞や、読切や、連載にたどり着きます。

見るもののクオリティをしっかり吟味して、集中してインプットし続けて、変化。成長を楽しめば、自ずと漫画家の道は拓ける、と僕は信じております。

ということで、前フリが長くなりましたが、今日は、ルーキーブログを読みに来ている、漫画家志望の作家さん達の変化・成長に繋がる「本」入門編の3冊を、紹介をしようと思います。

*****

まず、1冊目は、『藤子・F・不二雄のまんが技法(小学館文庫)』です。

描くぼくが楽しみ
読んでくれる人も楽しむ
そんな漫画がずっと
ぼくの理想なんだ。

     藤子・F・不二雄

そんな言葉から始まる、藤子先生が考える、漫画への向き合い方、作り方を説明してくれている本です。

『ドラえもん』のネーム、コマを例示にした、キャラの作り方や舞台の資料探しの方法、シナリオ(物語発想方)の説明は、明快で非常に分かりやすいです。

藤子先生が、細部に渡ってプロとして、ここまで考え抜いて漫画を創っているのか、と思わされます。

藤子先生は漫画を読むことが、とても好きだったのだな、そして、その好きな「漫画」を沢山の人に描いてもらいたいのだな、という熱意と愛が全部のページから伝わってきます。
(藤子先生のその気持ちに僕もメッチャ共感して働いております…!面白い漫画、読みたい!ので是非に、みんな漫画描いてみて下さい!)

基礎的なことから、本質的なことまで網羅している素晴らしい本ですので、漫画家志望者だけでなく、創作を志す人には是非に読んで欲しい本です。


『マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術』

僕は、「漫画家という仕事は、一人で世界に届く映画を撮るようなものだ」
と、よく新人作家さんに伝えています。

物語は脚本家の仕事。
主役キャラは主演。
助演、エキストラと画面に出るキャラは全て描き出さなきゃいけない。
CG効果、クリーチャーデザインなんかも、全部自分。
大道具、美術、照明など(影の入れ方にウソを付くのかリアルに行くのか等まで…!)
描き文字は、まるで音響効果。
構図を決めるカメラマンの仕事も重要です。

漫画家は、個人で描いて、世界に届く、総合芸術エンターテイメント。
とても素晴らしい仕事であると同時に、学ばなければならないことは山程あるのも事実です。

その中で、執筆初期に学習すると良いなと思うのが
「構図」です。

映画やゲーム、アニメ等の「構図」に関して体系化された教則本は、豊富にあります。
「構図」が読者・視聴者に与える心理を解説した本を、積極的に吸収して、成長していきましょう。

『マスターショット』は、シンプルな構成で解説された本で、入りやすい一冊です。
登場や会話のシーン、格闘やホラー、キスシーンやベッドシーンまで。
映画やドラマが、どのくらい計算されて、アングルを決めているのが分かる、良い本です。
この他にも構図で参考になる本は多数ございますが、まずは入門としてこちらを是非に。


『骨は珊瑚、眼は真珠』

3作目は、少し毛色を変えて…。
池澤夏樹先生の短編集です。
魅力的な短編小説が9本収録されています。
僕は個人的には『北へ』という短編が、美しくて切なくて好きなのですが、今回、ご紹介したいのは『鮎』という短編の作者による「註記」部分です。

この話、もとはどうもスペイン語圏の民話らしい。しばらく前に英訳で読んだ覚えがあるのだが、細部は忘れてしまった。
〜〜
なお、芥川龍之介の「魔術」という話がほぼおなじからくりだから、どこかにすべての原点というべき話があるのだろう。

是非に『鮎』という作品自体を読んでから、この註記全文を読んで欲しいので、一部抜粋しての引用です。
電子書籍も出ているので是非に。

元になったスペイン語圏の寓話のような物語と、
この考え方に基づいて池澤夏樹先生が書かれている短編小説を読んで、
「面白さを分解して再利用して、新しい作品を創る」
という創作の面白さと、考え方を学んで欲しい、
僕は、そう願っております。

*****

今回の記事は、以上です!

新人作家との打合せの際に、伝えたいことや、読んでみたら、こう考えてみたら、とお伝えする一部を書きました。
本当に極々一部の話です。

担当作家さんには、打合せの共通言語を増やすため&成長してほしいので、僕が良い!と思った作品の数十タイトルのインプットリストをお渡しすることもあります。

自分が成長するためには何を読んだら、見たらいいのか、知りたい!気になる!という方がいらっしゃったら、
是非に、少年ジャンプ+編集部へ持ち込みに来てみて下さい! Twitterでも持ち込み大歓迎です。

少年ジャンプ+編集部の僕らは、
面白い漫画を描こうとする作家の味方であり、伴走者でありたいと願っております。

林士平


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