【第69回】生み出すは千の笑い!! 華霊なるギャグ漫画家・鳩胸つるん 剥き出しインタビュー!!

唯一無二の露出狂ギャグ漫画『剥き出しの白鳥』で少年ジャンプ+に強烈なインパクトを残し、
ほのぼの背後霊ギャグ『ミタマセキュ霊ティ』で、少年ジャンプ読者に愛された、新進気鋭のギャグ漫画家・鳩胸つるん先生に、創作の秘訣と連載獲得までの道のりをインタビューして来ました!


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―――はじめに、鳩胸先生が漫画を描き始めたきっかけは何でしたか?

元々、小さい頃から『DRAGON BALL』が好きで、絵を描くことも好きだったので、小学生低学年の頃に、大学ノートに漫画を描き始めたのが、一番最初のきっかけでした。ただ小学5年生くらいからバスケにハマって全然漫画を描かなくなってしまったんですが。
その後、大学4年生くらいまでバスケを頑張って、引退して就職活動しなきゃという時に、あ、俺、そういえば漫画家になりたかったなと。
急に本格的に漫画家を目指すようになりました(笑)


―――バスケにしばらく打ち込んでる間は、漫画家になりたいという夢はなくなっていたんですね。

そうですね(笑)お恥ずかしながら。青春は全てバスケに捧げていました。


―――その中で、ギャグ漫画を描こうと思ったのは何故でしょうか。

これが、もう、あれですね。ストーリー漫画に比べて画力を問われないというのが一番大きくて(笑)急に目指し始めたから、何もわからないわけですよ。道具は何を使ったら良いのかとか、トーンはどれを買えば良いのかとか。本当に何にもわからなくて。でも、ギャグ漫画って、冷静に考えると、あれ、そんなに絵が上手くないなって。めっちゃ失礼な話ですけど。懐の深さというか、器の大きさをギャグ漫画に感じたんですよ(笑)きっかけは軽い気持ちでしたね。


―――そうしてギャグ漫画を初めて描き上げた後、持ち込みか漫画賞か、具体的にどのようなチャレンジから始めていったのでしょうか。

僕は最初にジャンプのギャグ漫画賞である「赤塚賞」に応募して、佳作をいただいて、そこから漫画家へ向けて動きだした感じでしたね。


―――いきなり受賞するとは凄いですね。その後、連載を目指す中でどれくらいのペースで作品を描いていましたか?

うろ覚えなのですが、最低月1本くらいは新作ネームを描いて持ち込みに行ってました。読切コンペが近い時は週1本くらいのペースだったのではないかと思います。


―――ペースとしては早い方なのではないでしょうか。

どうでしょうか。これは結構、人次第ではないかと思います。いっぱい描いた方が良いって人もいるだろうし、センスでいきなりデビューする人もいるだろうし。最終的に連載を取れれば、人によってどんなルートを通っても良いんだと思います。僕は一作目で受賞して、天才かなくらいに思っていた頃もあったんですが、そこからなかなか連載を取れない6年がありました。


―――いきなり受賞はしたものの、その後が長かったわけですね。

そうですね、でも今では下積みを経験できて良かったのではないかと思っています。バスケに取られていた漫画への愛を取り戻した感じだったので(笑)必要な6年間だったように思いますね。


―――6年間も諦めずに頑張り続けられたのには、何か理由があったのでしょうか。

大学4年生から描き始めて、知識とかも全くない状態でこの世界に入ってきたから、すぐに上手く行かなくても当然だって思ってましたね。そんな甘い世界じゃないというか。ずっと漫画が好きだった人に勝てる訳がないよなって気持ちがあったので、それで頑張り続けられたというのはあったかもしれません。根底では自分のことを未熟だと思ってて、でも、カッコいい言い方をすると「俺はこんなもんじゃないし」って思ってました。


―――『剥き出しの白鳥』『ミタマセキュ霊ティ』と2作ギャグ漫画を連載されましたが、連載をしてみて改めて感じたことや気づいたことはありますか?

うーん、やっぱりこれ一番は、人気を取るのはすごく難易度の高いことなんだなってことを痛感しましたね。ただ自分が面白いと思って描いてるものが、必ずしも人に受け入れられるわけではないし、理屈ではわかっていても、その感覚って実際に出してみないとピンと来ないものが多いというか。難しい世界だなと思いますね。


―――より読者を意識するようになったという事でしょうか。

そうですね。でも、それと同時に、合わせすぎてもダメだなというのも思っていますね。こんなのが好きなんでしょっていうのが透けて見えても読者は冷めちゃうだろうし。
自分が好きなものを描くというのは大前提としてあって、かつ読者に受け入れてもらえるというバランスを取るのが、すごく難しいなというのを感じていますね。あとは、とにかく週刊連載ってやらないとわからないことの方が多いなと。逆に、思いもよらない嬉しい誤算もあったり。


―――例えばそれは、どんな誤算でしたか?

『ミタマセキュ霊ティ』に関しては、最初はハゼレナは、読者目線の、薄いキャラにしようと思って作ったくらいのキャラだったのに、最終的には面白い動きをするキャラクターになったなと思っています。これも、連載でずっと同じキャラクターの色んな行動を描いて初めてわかった事でした。
ハゼレナを描けたのが、僕にとっては『ミタマ』を描いて一番よかった事でしたね。


―――漫画賞や読切掲載を目指して頑張ってる新人さんたちが、自分の予想しない良いキャラになったという喜びを味わうためには、どうすれば良いのでしょうか。

これはもう、描いてみるしかないですよねー(笑)ネームをやってると、頭で考えちゃいがちなんですよね。実際に描く前に、無駄な時間を過ごしたくないから。ちゃんと描いてボツになると、精神的ダメージが大きいから。
でもやっぱり、僕も9年くらいやってますが、描いてみないとわからないことの方が圧倒的に多いなと、やればやるほど思うようになりましたね。そして僕はセルフボツよりも、描いたらすぐに担当さんに見せてましたね。完成した達成感で、すぐ見せに行っちゃうみたいな。出来はいいや、みたいな(笑)


―――良い意味で、フットワークの軽さがありますね。

そうですね。その中でも、『剥き出しの白鳥』の読切のネームができた時は、人生で初めて早く担当さんに見せたいと強烈に思いましたね。逆に言うと、あれ以外ないんですけど(笑)いっつもだいたい、これ面白いのかなって思いながら、それでも持って行ってましたね。


―――それではネームは具体的にどういった手順で描いていきますか?

まずB4のコピー用紙に、セリフとかをバーっと最後まで書きます。その1枚が出来たら、今度は、B4を8つに折って、コマ割りだけのミニネームにしていきます。この段階では、自分にしかわからないくらいのネームです。ミニネームまで進めてみたら全然面白くないということもあるので、描きながら修正したりもよくあります。最後にクリスタで1Pずつ清書していく感じですね。


―――鳩胸先生はキャラクターを作る時にどのような点にこだわっていますか。

キャラクターは難しいのですが、ほぼ思いつきなんですよね。ストライプさんなんか良い例で。90%くらいは思いつきです。強いて言うなら、どんなダサさがあるかってのから作りますね。ただカッコいいキャラってどうしても好きになれなくて。『剥き出しの白鳥』だったら白鳥は露出が好きだし、『ミタマセキュ霊ティ』だとミタマは怖がりだし、欠点というか「どんなダサさがあるか」から作っていきますね。


―――ギャグを考える上でのコツや大事にしていることは何かありますか?

コツがあるなら僕が知りたいくらいなんですが(笑)ギャグって全員にウケるってのは不可能ですし、お笑いなんかの舞台と違って、どこに笑ってくれるか反応も見れない。だから一番は、自分が満足しているものを描くことだと思ってますね。
自分でもイマイチだなって思ってるギャグが反応悪いと、すごく精神的にダメージがあるんですが、自分が面白いなって思ってるギャグがウケなくても、意外とダメージはないんですよ。僕も面白くて、担当さんの反応も良くて、それでも人気が取れない時もあって、もうそうなると、その結果も含めて面白くなっちゃうというか。
あとは、細かいことで言うと、ツッコミは最小限の方が良いのかなと思ってます。理想で言うと、単語ぐらいが良いなと。あまり長台詞のツッコミを描いていると、芸人さんのマネをしているようで自分でも冷めちゃうというか。漫才じゃなくて、漫画なのだから、絵で笑えるのが理想だなと思っています。


―――ネームで詰まることはありますか?また詰まった時の解消法はありますか?

98%はネームに詰まりますね。もうホントだいたい詰まるし、解消法があるとしたら、勇気を持って全部捨てて次に行くと、ポコっと良いのが出来たりするんですよね。せっかく頑張ったネームを捨てたくないって葛藤と折り合いをつける方法ですが、いつかこのネームを使える日が来るかもしれないと思うと、ちょっと楽になります。


―――新人の頃に「これだけはやっておけばよかった」ということはありますか。

これはもうアシスタントはやっておけば良かったなと。と言うのも、技術的なこともそうですが、お給料の渡し方とか指示の出し方とか。漫画の指示の出し方が『バクマン。』の知識しかないんですよね(笑)一度、担当さんからもアシスタントのお話はいただいたんですが、当時めちゃくちゃバイトに入ってて行けなかったんです。


―――次回作も大変楽しみなのですが、現時点で何か構想はありますか?

いやー、今まさに色々と考えてるところなんですけど、バスケ漫画を書きたいなって気持ちはずっとあって、大好きであるがゆえに、失敗を恐れて描いてこなかったんですが、やってみたいなと思いますね。でも、バスケ漫画でネームに詰まったらもう後がないからどうしようかなと(笑)


―――最後にジャンプルーキーからデビューを目指す新人作家さんに一言お願いします。

僕は何年か漫画を描いてきて、一番思うのは「面白い漫画を描く能力」と「漫画を描き続ける能力」は全く別の能力だなということです。いつか面白いアイデアを思いついた時に、漫画を描き続けてきてないと、それを形にする能力がないってことになりかねないというか。将来連載を目指すのであれば、漫画を描き続けることは大事だなと思います。一緒に頑張りましょう!