◆はじめに
皆さんこんにちは。ジャンプ+編集の高橋です。
漫画を作るための方法やストーリーの組み立てかたなどはネットや本にもありますが、意外とどうやって勉強したらいいのか分からないという話をよく聞きます。
そこで、今回は私が実践している映画を使った勉強方法をお伝えできればと思います。
あくまで今までの経験上のものなので、一つの方法として参考にしていただけますと幸いです。
ちなみに、なぜ映画かというと、漫画と映画は似ているからです。
編集部の先輩にも、
「映画はたくさんのプロによって作られるけれど、漫画家は映画を1人でこなすようなもの」
と言われますが、私もその通りだと思っており、担当の漫画家さんにも良く同じことを伝えます。
もちろん映像と紙では表現方法が違うので100%同じではないですが、ストーリーの組み立て方やキャラクターの出し方などかなり参考になります。
漫画だけを読むのでなく、映画(や他の芸術・エンタメなど)から学んでみると、思ってもいなかった視点や方法を思いつき表現の幅が拡がる手伝いとなります。私もそうでした。
機会を見つけてチャレンジしてみてください!
(以下、ちょっと長いので時間あるときに見てください)
◆映画「ズートピア」で見る組み立て方
具体的に説明する資料として今回選んだのは、ディズニー映画『ズートピア』です(アナ雪と迷いましたが、これは動物が好きという私の趣味に走ります)。
ディズニー映画作品はどれも構成がハリウッド映画のお手本のようにシンプルな【3部構成】になっています。そのため初心者でも分析がしやすく、漫画に役立てるのに持ってこいです。
特に『ズートピア』はいわゆる【バディもの】と言われるもので、青春・バトル・ミステリーなどなど様々なジャンルに使えます。なのでぜひ今回の分析をもとに、漫画でもやってみてください。最初は読切をやることからお勧めします。
◆3部構成とは?
スバリ!映画的には以下の3つを指します。
・セットアップ(設定)
・ディベロップメント(展開)
・レゾリューション(解決)
人によってはビギニング・ミドル・エンドと言ったりもします。ネットでもよく見かける3部構成ですが、あまりにもざっくりすぎてわからない!という人が多いと思いますので、具体的に分けていくとどうなるかをまとめます。
<セットアップ>
1 オープニング・イメージ
2 テーマの提示
3 セットアップ
4 きっかけ
5 悩みのとき
<ディベロップメント>
6 第一ターニングポイント
7 サブプロット
8 お楽しみ
9 ミッド・ポイント
10 迫りくる悪い奴ら
11 全てを失って
12 心の暗闇
13 第二ターニングポイント
<レゾリューション>
14フィナーレ
15 ファイナル・イメージ
と細かく分けることができます。
(人によっては第二ターニングポイントがレゾリューションと言う人もいるかもですが、私はここまではミッドだと思っているので上記でお伝えしますね)
こちらの分け方は脚本術を大変わかり易くまとめた『SAVE THE CATの法則』という本を参考にしています。興味のある方はぜひご一読ください!
◆具体的に映画に当てはめてみよう!
じゃあ、実際にストーリーに物語に当てはめていくとどうなるのか?となりますね。
そこでいよいよ『ズートピア』の出番です。具体例があるだけで、自分のオリジナルストーリーを作る時に、見本として比べながら作ることができます。物語は違ったとしても、基礎の一つにできると思いますので、ご参考になさってください。
<セットアップ>
1 オープニング・イメージ
世界観、舞台の説明です。ズートピアでは主人公・ジュディが幼い頃の舞台演劇という形で、この世界は草食動物と肉食動物がおり、進化を果たして共に手を取り合い夢を追いかけることができるようになったと説明しています。そして、その理想郷「ズートピア」であるとしっかり観客に提示しているのです。
2 テーマの提示
ジュディは演劇で「そして、私は警察官になるの!」と堂々と叫びます。しかし周囲の様子から草食動物でもか弱くフワフワな可愛いうさちゃんが警察官になるのは困難で前例のないことだと分かります。同郷の肉食獣・狐のギデオンから馬鹿にされてしまう…けれどジュディは諦めず「夢」を叶えることを誓うのです。パッと見るとテーマは「夢」を叶える話か…?と思いますが、ここがさすがディズニー。夢を叶えるだけでなく、このジュディとギデオンを使って、現実の縮図「草食は肉食に怯え、肉食は草食を喰らう本能がある」というのも同時に見せることで、この後に起こる事件やテーマを部分的に見せているのです。
3 セットアップ
そして、いよいよ物語の本番にして重要な部分。ここでは主人公の目的・理由が再度語られ、物語のテーマを提示します。「ズートピア」では月日は経ち、ジュディは念願だった警察学校へ入学し、最初は他の大型動物に見下されますが、知恵を働かせ持っているウサギとしての身体能力を生かし、見事【初のウサギ警察官】となります。
また、物語を動かす理由も同時に見せます。ジュディは憧れのズートピアへ配属!ジュディは夢を叶えるのです。そしていよいよ舞台はズートピアへ!ここから物語のスタート地点とばかりにオープニング音楽と映像が流れます。(漫画なら扉絵などでもいいかもしれませんね)
4 きっかけ
ジュディは理想と希望を胸に警察官としての第一歩を踏み出しますが、そこには現実という壁があります。彼女を待っていたのは「小さいうさちゃんに何ができるのか」という大型動物たちからの見下し。警察学校と同じく知恵と機転を利かせればいい…と思いどんなに頑張っても報われず、任される仕事は自動車違反切符を切るだけ。ジュディの思っていた刺激的で理想的な警官らしい事件「肉食獣行方不明事件」があるにもかかわらず、情報すらも共有してもらえず、ジュディは初日から悔しい思いを味わいます。主人公は理想と現実のギャップを何度も突きつけられるのです。
5 悩みのとき
そんな時、ジュディは後に相棒となる狐のニックと出会うのです。彼に騙され最悪の出会いを果たしたジュディはニックから現実を突きつけられます。「ズートピアに来るやつは何にでもなれると思っているが自分を変えられない」と。ジュディは理想と現実の間で悩み、もがくことでストーリー上の問題を提示します。
<ディベロップメント>
6 第一ターニングポイント
落ち込んでいる時、泥棒を追うことに!これぞジュディが待っていた警察官らしい仕事とばかりに張り切ります。しかし、犯人を無事に逮捕したにも関わらず、街を困らせたジュディを署長は厄介者としてしか扱いません。そこへさらなる事件が…行方不明者のカワウソの妻が夫を探してと訴えてきます。ジュディは勝手にも探すと約束し、羊のヴェルウェザー副市長の助けもあって48時間の期限付きで事件を追うことを許されます。警察官という自身の夢をかけて…いよいよ物語は勢いを増し、観客を楽しませるアクションが開始されるところになります。ここをいかにワクワクさせられるか…腕の見せ所となります。
7 サブプロット
ここで事件を追う手助けをさせるためにニックと手を組むことに。2人の関係はお互いに「気に食わない奴」というスタート。バディもののお約束!嫌いな奴と組むことになるのです。観客へ2人が深い関係になることをしっかり予感させています。ここでのやり取りは後の方でも2人の会話のテンポや関係性に大きく影響を与えるので、どういうバディにしたいのかを考えながら入れることをお勧めします。
8 お楽しみ
ここからはジュディとニックのお互いの駆け引き!ニックはあの手この手でジュディの邪魔をします。2人は嫌味の応酬を繰り返しながらも事件を追いかけます。ジュディとニックは少しずつお互いのことを知っていき、ジュディによってニックは助けられ、関係が前進するのです。(漫画だとコメディパートになるような抜け部分となって読者を緊張感から解き放ち、より物語を気軽に楽しむきっかけとなります)
9 ミッド・ポイント
ミスタービッグというマフィアのボスにより、カワウソ探しの大きな手がかりを得ることに。そこで肉食獣が理性を失くし野生化をしてしまう姿を目撃し、ただの行方不明時間ではないことを知ります。ここが物語の中間地点で前半と比べると物語が大きく転換する箇所となります。前半と比べていかにギャップを見せられるかが大事になってきます。
10 迫りくる悪い奴ら
ミッドポイントで一つ真相に近づいたら、野生化した肉食獣に襲われるジュディとニック!取り逃してしまったジュディは警官をやめろと迫られますが、ここでニックがジュディを助けることで、2人は仲間らしくなります。そして、事件をさらに進めるきっかけを掴んでいきます。ここではしっかりとバディとしてのお互いの形が見えてきて、ジュディとニックはお互いの得意分野で助け合いながら真相を追う形で関係をしっかり築いていきます。(漫画では一番楽しめるキャラの関係性の変化なので、丁寧にしっかり描いていくことをおすすめます)
11 全てを失って
ジュディとニックは野生化した行方不明者を見つけ、さらに犯人を見つけたことにより、ジュディは警察官として認められることに。けれど、その結果「肉食獣は危険」という恐怖を市民に植えつけてしまい、ジュディは相棒であったニックの信頼を壊してしまうことに。警察官の理想を追い求めて大切な相棒を失ったジュディは、警官バッチをそっと置いて立ち去ります。物語で一番大きな挫折となり観客をハラハラさせる部分。次の読者へのワクワクへとつなげるために上手くいれる必要があります。
12 心の暗闇
ジュディは実家へ戻り、自分の甘さを認め悩む。「罪のない肉食獣を追い詰めてしまった…」と。けれど、ジュディを救ってくれたのは、幼なじみの狐・ギデオン。両親とギデオンは草食獣と肉食獣でお互いに手を取り合って生活をしていました。ここで、ジュディは迷いを振り払い自分と向き合い、そして真の意味で夢を諦めず、どんな困難にも立ち向かうと決意するのです。このシーンこそテーマを伝えるための必要なステップです。(漫画なら読者に主人公を本当の意味で応援したいと思わせる大切な葛藤シーンです)
13 第二ターニングポイント
ジュディは実家で肉食獣の野生化の鍵を見つけます。その事件解決の鍵を握って再びニックとバディを組んで事件の真相へと近づいていく!ここが作品の一番盛り上がるところ!アクションも今までの中で一番ド派手に!そして、事件の真相は意外な動物の罠だったことが分かます。ここで物語全体の真相と共に真のバディと2人はなるのです。バディに関してはお約束通り心を通わせますが、さらなる真犯人が出てくる部分…漫画ではここがすごく重要で“いい意味での裏切り=想像を超えるどんでん返し”となる部分です。ここの面白さで漫画の読後感が全く変わってきます。ですので、大事に丁寧に。
<レゾリューション>
14 フィナーレ
真犯人を捕まえ、ジュディは草食獣と肉食獣の壁を知り、お互いの問題点、ジュディ自身の問題点に気づき、諦めずに世界をより良くしようと誓います。
理想ばかりを追い求めたジュディは言います。ズートピアは理想郷ではない。困難がいろんなところにある。けれど、諦めない──「自分を知り、自分を見つめ、自分を変えることからはじまる」理想に近づくためには一人ひとりが変わり、みんなで手を取り合って作り上げていくことが必要なのだと。
まさに一番言いたかったこの作品のテーマを主人公は自覚し、言葉にして観客へ伝えるのです。主人公は最後まで葛藤し続け、そうして終わりでようやく一つの答えへと辿り着く…決して早くもなければ器用でもないけれど、だからこそ観客は等身大の自身と見比べてジュディへと共感し、主人公を応援しようと思えるのです。漫画と同じですね!
15 ファイナル・イメージ
ジュディは真の相棒となった狐初の警察官となったニックと共に、様々な事件解決へと奔走するのでした。1人だったジュディはみんなに認められ、ニックと共に未来へと一歩を踏み出す──まさに大団円です。未来の2人の活躍を思う人もいれば、この後2人がどういう関係になっていくのか想い馳せる人もいたと思います。これほど続きを想像し易く、けれど無限に考えられる終わり方はそうそうありません。それほどまでに、観客を惹きつけ、世界をしっかりと理解させて、キャラクターへと心を入れさせられる…ディズニーの完璧な作りに感服します。
こうやって当てはめていくと、ディズニー映画がいかに脚本術に忠実で、シンプルな作りなのか分かると思います。しかしその分、キラリと光る設定、キャラクター、物語のいい意味での裏切りの上手さ…!まさにお手本にしたい部分がたくさんです。
◆最後に
最初にディズニーの映画作品にした理由を伝えましたが、もう一つ理由があります。
それは「いいものを作るためには何度だって納得いくまでやり直す勇気」が必要ということです。
今回『ズートピア』を使用させていただきましたが、この作品は今のストーリーになるまで400本以上の脚本を捨てています(ディズニーファンの間では有名ですね!)。
それは「面白くないから」というネガティブな行動ではなく、「もっと面白くなるのではないか?」と常に監督や脚本家、映画を作るスタッフ全てが自分たち自身に問いかけ続け、納得のいくものを作り上げるため、ポジティブに更新を繰り返した結果です。
だからこそ、ディズニーは年齢・性別・時代に関係なく面白い作品を常に作り続けられるのだと思います。
私は漫画も同じだと思っています。(さすがに400本を1人でこなすのは難しいですが)
一度自分が満足したとしても、冷静に振り返ってみると、その作品にはさらに良くなる可能性が秘められていることに気づきます。もちろん、漫画賞の〆切などの制約はありますが、出来る限りネタや設定、キャラ、ストーリー、構成、演出、ネームなど振り返って、様々なトライ&エラーを繰り返してみてください。きっと漫画家としてためになる気づきを得られるはずです。
終わりに…現在「次世代少年漫画賞」を募集しています。
ぜひ漫画家への第一歩の場としてご活用ください。