「ルーキーなら、これぐらいの画力でも載せていいかなと思って」『ふつうの軽音部』原作・クワハリ先生の【絵が苦手】だからこそ開けた漫画道
高校の軽音部を舞台にした青春ドラマ『ふつうの軽音部』。「次にくるマンガ大賞2024」Webマンガ部門第1位を受賞した、「少年ジャンプ+」で連載中の本作は、原作担当のクワハリ先生が「ジャンプルーキー!」に投稿していた同名の作品が元になっている。フルタイムで仕事をしながら「ラクガキ」でもいいと投稿していた当時の心境、独特のネーム執筆法など、マンガ家志望者はもちろん、そうでなくともマンガを描きたくなるインタビューをお届けしたい。
マンガを描くようになった経緯を教えてください。
最初はただ「絵を描いてみよう!」と思ったんですよ。iPadを買ってイラストの練習をしていたんですが、30代まで特に絵を描いたことがなかったので、全然上手くならない(笑)。それにイラストというと精緻なものが求められると思うんですが、僕の性格上、1枚の絵に長時間かけるようなことがどうしてもできなくて。でもある時「マンガなら描けるのでは?」と気づいたんです。クオリティを問わなければ、「棒人間」みたいなキャラクターでもマンガになりますよね。
確かに、それもマンガの素敵なところですよね。フルタイムで別のお仕事をしながら、まずはTwitter(現X)にエッセイマンガをあげるようになったそうですね。その次にフィクションの『ふつうの軽音部』を描くようになったということでしょうか?
そうですね。最初は、自分の高校時代を題材にしたエッセイマンガを描きました。絵が描けないだけじゃなくて、話も作れないと思っていたんですよ。寝る前にマンガのストーリーを妄想することはあっても、つまらないことしか思いつかなかった。自分の高校時代のことなら筋書きが既にできているので、エッセイマンガならと思って描き始めました。
ただそのうち、高校時代そのままでは全然ドラマがなくてつまらないと思うようになったのと、女性のキャラクターが全然出せないことに気づいて。なぜなら、女子とほとんど関わりがなかったから。でも、描いてみたいと思った。それで「嘘の話だったら、好きに描けるじゃん!」と気づいてフィクションを描こうと思いました。
実際に、『ふつうの軽音部』で女性キャラクターが中心となるフィクションを描いてみて、これだ!という手応えはありましたか?
確信はなかったですが、描くのは楽しいなと思いました。今もそうですが、女性キャラクターにも、自分の一部を投影して描いています。
Twitter(現X)への投稿から始めて、次の投稿先として「ジャンプルーキー!」を選んだのはなぜですか?
「ジャンプ」という名前に親しみを感じたのと、美麗な絵のマンガだけじゃなくて、僕の描く「ラクガキ」みたいな絵と同じような絵のマンガもたくさん載っていたので、ここなら自分も投稿できそうだ、と(笑)。
投稿する時点でデビューを目指していたのでしょうか。
そんなこと全然考えてもいなくて、「ちょっとバズったら嬉しい」がゴールでした。でも投稿を始めた頃は全然読まれなくて……少しずつ毎回読んでコメントしてくれる方が出てきて、すごく嬉しかったです。
仕事をしながらも描き続けられたのはなぜだと思いますか?
僕の場合は、絵のクオリティがすごく低かったのが大きいと思います。描くのに時間がかからない。いきなりクオリティの高いものを作ろうとするより、「これぐらいの絵でも描いているやつがいるんだよ」という感じで、気軽に投稿したらいいと思うんです。ルーキーは本当に何を載せてもいい場所だと思うので。
絵がヘタなほうが有利になることもあるかも?
その「ジャンプルーキー!」への投稿をみて、今日も同席されている、現在の「少年ジャンプ+」の担当編集さんが声をかけたわけですね。
担当編集者 本当におもしろくて。これはすごい、と。
クワハリ ランキングに入ってさらに多くの人の目に触れるようになりましたが、絵がヘタなほうが有利になることもあるかもしれないですね。ヘタなのにレビュー数はなぜか多いぞ?と。
作画担当の作家さんと組んで、ご自分は原作になると決まった時、絵が描けなくなるのか、と残念に思いませんでしたか?
思わなかったです。原作者としてやっていこう!という気持ちしかなかった。絵がヘタということは、絵を描くのが大変、ということなんですよ。「このポーズをどうごまかそう?」とか、常にクイズをやっているみたいな状態でしたから。
作画を出内先生に、というのは編集さんのご提案ですよね。
担当編集者 はい。直感で合うだろうなと思いました。あえて理由を言うとしたら、出内先生の前作『野球場でいただきます』(出内テツオ、KADOKAWA)が、かわいい女の子たちがわちゃわちゃしていて、日常っぽいシーンもあって。『ふつうの軽音部』と共通しているところが多く、イメージが湧きやすいなと思いました。また、出内先生はバンド未経験でしたが、自分で各地に足を運んで取材をしてマンガにする、ということを前作でやられていたので、新しいことを吸収して作品に落とし込んでいくのもきっとお得意だろうと。2人ともTwitter(現X)が活発で、ノリも合うだろうなというのも決め手の一つでした。
出内先生に読んでいただいたら、「めっちゃ面白いです。ぜひやりたいです!」と喜んで引き受けてくださって。連載会議まであまり時間がなかったんですが、クワハリ先生のマンガを元に、すぐに会議に提出するためにネームを描いてくださいました。
仕事を辞めることに不安はなかったですか?
言われてみればそうですね。もっと不安に思うべきだったかもしれない。昔から、「将来どうしよう」みたいなことはあまり思わないんですよ。大学を卒業してから会社員をちょっとだけやって、辞めて、バイトをしながら通信制で資格を取って、別のところで働いて……結構フラフラしてきたと思います(笑)。
今、こうしてチームでマンガを作っている感じが好きです
現在の1日のスケジュールを教えてください。
めちゃくちゃ朝型で6時半、7時くらいには起きてしまいますね。ちゃんとした1日で言うと……午前中は家で作業して、午後になって集中力がなくなってきたら、カフェとかちょっと場所を変えて作業することもあります。夜はあまり仕事しないですね。お酒を飲んだり、最近はジムでちょっと運動したりしています。
編集さんとのストーリーの打ち合わせは、ネームに入る前に毎回行うのですか?
一度の打ち合わせで5話分ぐらいの話をします。それを僕が1話ずつネームにして、見てもらう感じですね。1話ごとに打ち合わせをしても、僕の場合その通りに収まらないこともあるので。「文化祭でライブ」とか大体のイベントは先まで決まっているのですが、そこに至るまで何話使うかは、描いてみないとわからないんです。
担当編集者 1週先、2週先まで先行してあげてくださることもあります。
ギリギリにならないように、ご自分でコントロールしているのでしょうか。
クワハリ そうですね。締め切り通りにおもしろい話を思いつくとは限らないので。追い込まれると不安になるタイプなんです。
ネームはどんなふうに描いていますか?
事前に文字でプロットを作るようなことはせず、iPadでコマを割りながら話も同時に考えていきます。1回19ページぐらいを基本にして、まずは適当にコマを割りながら描き始めて、13、4ページぐらいまで来たところで初めて、どう終わるかを考えます。思いついたら最後の19ページ目を描いてしまって、間を埋めるように描いたりもしますね。このやり方だと、引きが弱いからここでこのキャラを出そう、とか意外な展開が浮かぶことがあるんですよ。
頭から順番に描かずに後ろから描いてみることで、自分ひとりの作業でも見る目が変わるというか。
そうです、そうです。描きながら、ずっとそうやって考えていますね。この段階でできるものはネームのラフみたいなもので自分にしか読めないので、清書して編集さんに見てもらいます。
以前、清書の作業でも、飽きてきたら順番を飛ばして描くとおっしゃっていました。
はい。頭から1ページずつではなくて、急にコマを飛ばしたり、次のページから描き始めたりします。清書段階でもセリフが変わったり、いらないコマが出て来たり、場合によってはストーリーが変わったりもします。
ネームを元に出内先生とも打ち合わせを?
内容に関しては特にしませんが、僕のコマ割りが素人同然なので、出内さんに指摘してもらってコマを増やすようなことはありますね。出内さんと編集さんとの3人のLINEグループがあるので、そこでやりとりをすることが多いです。いつも、出内さんの絵の入ったネームを見て「自分のあのネームがめっちゃ良くなってる!」と思っています。
出内先生の絵に影響を受けることはありますか?
ありますね。キャラクターの内面も描きながら考えていくのですが、その時「出内さんの絵」で考えているんですよ。それがキャラの性格に影響を与えている気がします。特に水尾は、出内さんの描くあの顔を見て、どういうキャラなのかが決まったと思います。
クワハリ先生から出内先生にフィードバックすることもありますか?
たまにですが、下絵を入れてもらった後、表情のニュアンスが意図しているものと少し違います、と指摘させていただくようなこともあります。今、こうしてチームでマンガを作っている感じが好きなんですよね。もし一人でやっていたら、もっと不安だったと思います。
目の前の争いにも価値がある
作品の中身についてもお伺いさせてください。とても「今っぽい」というか、今の世の中を映しているような作品だと感じます。
僕としては「今の若者のリアル」を捉えようとは思っていないというか……捉えられないと思っていて。ある意味、僕の中で理想化されたティーンエイジャーを描いているんですよね。あまり露悪的なもの、「人間って嫌なものだよね」というマンガにはしたくない。「しょうもない若者たち」だけど「結構いいよね?」という世界観ですね。バカだなあ、という人も出てくるーー例えばヨンスとかですね。でもヨンスをバカにするとか、「こんなやつ嫌だよね」というふうに描いているわけじゃなくて「こんな子もよくない?」というつもりで描いています。
『ふつうの軽音部』で描きたいのは、「しょぼい何かに熱中することの良さ」なんです。メジャーデビューするとか世界一のバンドになるとか、そういう大きな何かではなくて、「学校で一番のバンドになる」みたいな目の前の争いにも価値がある、と僕は思うんです。最近よく「昔は『この学校で一番絵が上手い』と思っていられたけど、今はネットで本当に上手い人の絵が流れてくるから、簡単には調子に乗れないよね」みたいなことが言われますよね。でも僕は、そうやって俯瞰的に物事を見る冷めた感じというか、ちょっとバカにする感じは良くないなと思っていて……そういった風潮への反骨精神みたいなものがあるんですよ。「学校で一番絵が上手いんだ!」みたいな自負で、校内で切磋琢磨するのもすごくいいことだなと。それがこのマンガのテーマのひとつですね。
「主人公っぽいムーブ」を意識
主人公の「はとっち」は、今まで見たことのないタイプの魅力的なキャラクターだと思います。いわゆる「陽キャ」ではないですが、「陰キャ」という感じでもない。突然大胆な行動に出たりもしますね。
鳩野は陰キャではないですよね。自分では、わりと社交的なやつだなあと思って描いているんです。ひとことで説明しにくい、型にうまくはめられないキャラで、キャッチーじゃないなと思っています。
「ジャンプらしさ」は意識していますか?
結構意識しています。鳩野は落ち込んでもわりとすぐ立ち直るんですが、それも主人公っぽいムーブを意識してのことですね。もしジャンプらしさを意識しないで描いたら、もっと鳩野が落ち込む期間を長くしたかもしれない。それだとちょっとダレるし、人気も下がると思います。
以前、「ジャンプルーキー!」編集部ブログのインタビューでも、「各キャラクターを『明るい』とか『クール』とか、ざっくりとした第一印象で考えておいて、その第一印象だけだとありがちになってしまうので、二面性を与えられるようにエピソードを作っていった」とおっしゃっていましたね。
話の中で、役割的にこういうキャラが欲しいなと思って出している面もあるんですが、自分の住んでいる大阪の高校生たちの話となると、あまり〝マンガっぽい〟キャラクターを出すことに違和感があって。役割的に必要なキャラでありつつ、〝普通っぽい〟感じにしようとはしています。
だからといって、リアリティのあるキャラクターを描くぞ!とは思っていないんですが、自分がまったくピンとこない、「こんな奴いる?」みたいなキャラクターを上手に描ける自信はないので……「こんな奴いるかもね」という感じがいいのかなと思います。
これまでを振り返って、特にうれしかったのはどんなことですか?
自分がずっと描きたかった回を描いて、反響が大きかったことですね。25話の彩目がバンドに入る回と、はーとぶれいくの初ライブの回(36話・37話)なんですけど、どちらもめちゃくちゃ反響が大きくて嬉しかったです。
彩目というキャラがわりと好きなんです。なんで好きなのかと言われると難しいんですけど……。
読んでいても、特に彩目には「幸せでいてほしい」と思ってしまいます。
担当編集者 25話で、彩目が読者の心をぐっとつかんだ感触がありました。ここからどんどん愛される、いいキャラになっていったと思います。
初ライブの36話・37話は、読んでいてもついにライブだ!という喜びがありました。
クワハリ この回はずっと前から話ができていて……1年くらい待ってようやく世に出せて、それがちゃんと支持を得られてうれしかったです。最初は違う曲を演奏する予定だったんですが、途中で今の「ジターバグ」に変えて、自分でもいい話になったなと思いました。
ちょっと意表をつけたらいいな、と
読み手としては、どんなマンガが好きでしたか?
ジャンプのバトルマンガが好きで、読んできました。『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦、集英社)とか『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)とか。
描き手になってからも、楽しみながらマンガを読めていますか?
楽しく読んでいます。ただ連載が始まってからは、特に「少年ジャンプ+」のマンガを積極的に読もうとしているところはありますね。奇跡的にいま自分が「少年ジャンプ+」で連載できているので、「少年ジャンプ+」自体がさらに盛り上がってほしいなと思っているんですよね。
『ふつうの軽音部』は連載開始以降、一気に人気作になって、「次にくるマンガ大賞2024」Webマンガ部門で第1位を受賞するなど、今、環境的に大きな変化の中にいらっしゃると思います。どんなふうに感じながらマンガを描いていますか?
考えていることは、あんまり変わっていないですね。連載を始めた時も今も、自分が思い描いている最後を描ける気がしなくて……。来年も連載が続いてるのかな?と常に不安なんですよ。具体的な心配事があるわけではないんですが、なんか順風満帆に進むイメージができないんですよね(笑)。先ほど言ったように要所要所の、何年生の時にはこういうライブのシーンを描きたい、みたいなイメージはあるんですが、キャラの関係性がどうなるとかは決めていなくて。描かないと分からないんですよ。
だから我々読者も「どうなるの?」とドキドキしながら読んでしまうのかもしれません。40話でははとっちがレイハの突然の提案で、ギターもない中で歌いだして意表をつかれましたし、とても痛快でした。
あれは脈絡なく、アドリブで描いたんですよ。レイハには会わずに帰る予定だったんですが、急に思いついて。
アドリブをやったことで、予定していた大枠から外れてしまうなど整合性が取れずに困ることはありませんか?
そうなるのが常に怖いです(笑)。ただ細かいことの辻褄をあわせることは好きなんですよ。ほかの人のマンガでも設定はよく覚えているほうだと思うので大丈夫かなと……いつか破綻する気もしますが。
この先どうなるのか、ますます楽しみです。
ほかにも描きたい要素はいくつかあって。「王道青春もの」っぽいことも描きたいし、ちょっとこう……「駆け引き」みたいなことも描きたくて、いろいろ入れている感じです。
「駆け引き」というのは、厘がフィクサーというかプロデューサーのように画策しているようなことですか?
そうですね。それは今後もちょこちょこ描きたいなと思っています。
今、マンガの発表の場が広がったり、タテ読みのマンガが出て来たり、マンガの世界がどんどん変化していますが、そういう中でマンガを描くことについてどう考えていますか?
こんなにおもしろいマンガがこんなにたくさん、しかも無料で読める状態で存在するのに、僕なんかがマンガ家として生きていけるのかな?と思うんですが……こんな状態だから僕が出てこられたんだとも思うんですよ。紙媒体しかなかった頃と違って、今はウェブを入れたら本当にたくさん席があるので。
マンガを描いてみようと思っている人にひとこといただけますか?
描いてください、と。マンガはもうあらゆるジャンルやテーマが描き尽くされたという意見もありますが、そんなことはないと思ってます。人にはそれぞれ個性があるので、マンガにもその人にしかない「ノリ」が出ると思うんですよ。言語化が難しいんですが……セリフの回し方や間の取り方みたいなものですね。だから同じ題材でも、その人にしか描けないマンガになる。みんなに、マンガを描いてみてほしいです。
- 取材・文:門倉紫麻
- 撮影:中島真美
- 編集:春田知子(株式会社ツドイ)
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