「商業誌の登竜門だけど、自由な場でもありたい」矛盾する難題に解を出した、開拓者たちの挑戦譚。「ジャンプルーキー!」10周年記念運営座談会
「ジャンプルーキー!」10周年を記念して、サービスの構想から現在まで携わっている編集部の籾山と、運営を担当するネットコンプレックス株式会社の今村さん、サービス開発を担当する株式会社はてなの矢花さん、さらに現場の編集部員として「ジャンプルーキー!」を日々チェックし携わっている編集部の髙橋による座談会を行いました。
前編では「ジャンプルーキー!」誕生の経緯から、この10年間の変化と変わらない思いについて、ざっくばらんにお話します。
「ジャンプルーキー!」誕生の経緯
そもそも、「ジャンプルーキー!」はどういう経緯で立ち上がったのでしょうか?
少年ジャンプ+籾山 2014年9月の「少年ジャンプ+」(以下、ジャンプ+)立ち上げにあたり、当時はスタッフも少なく、また何よりも描いてくださる作家さんも少なくて創刊前から困ったなと思っていました。作家さんを募るために従来の漫画雑誌のやり方、つまり持ち込みだとか漫画賞を企画してもまだ作品が足りなそうに思ったんです。そこで従来の漫画雑誌でもやっていないような別の方法がないかと考えて、作品を公開できるウェブサービスをやればいいじゃないかと。
少年ジャンプ+籾山 思いついたタイミングで、既にお付き合いのあったネットコンプレックスさんと、別件でお世話になっていた方がちょうどその頃転職されたはてなさんに打診をしました。ただ、はてなさんは当時受託開発をほとんどやってらっしゃらなくて。
はてな矢花 当時はあまりなかったですね。2008年から任天堂さんのゲーム関連サービスの開発をさせていただいてたんですが、それ以外はほぼなかったです。
少年ジャンプ+籾山 だから打診した際も、最初の反応は半分断られたようなものでした(笑)。「一応、念のために社内で話してみます」くらいの感じで。でも、社内で企画を通してくれて。
はてな矢花 会社として「表現する人を支援したい」という考えはあったんです。そこは共感できるところだった。それに業界のトップである集英社さんから実現したいという相談をいただいたので、あまり前例はないがやってみようかということになりました。
少年ジャンプ+籾山 はてなさんと、ネットコンプレックスさんと、集英社とでやろうということになったのがジャンプ+創刊の5か月ぐらい前ですかね。
ネットコンプレックス今村 本格的に動き出す前のブレストはかなり密に、何度もやりましたね。うちの会社としては、できるかどうかではなく「アサインされたからにはやる」って感じでした。
作品の「投稿しやすさ」の秘密
実際にサービスを実現させるとなると、難しい局面もあったかと思いますがいかがですか。
少年ジャンプ+籾山 集英社には、投稿作が自動的に公開される仕組み自体を怪訝に思う社員もいました。僕たちは編集者であり、掲載作品を吟味し編集したうえで世に発表すべきだという考え方です。どんな作品が投稿されるかわからないですから、当然リスクもある。
その気持ちに理解は示しつつも、メリットのほうが大きいと思いました。作家さんにとってすごくいいサービスになるし、編集部にとってもジャンプ+と合わせてスタートすることで、ジャンプ+に描いてくださる作家さんも増やせると。読者もこういうサービスがあったら喜んでくれるはずと交渉し、最終的には会社にも了承してもらえました。
はてな矢花 はてなとしては、困難というよりは「はてなが関わるからには、このサービスを実現しなければ」という思いがありました。技術面に自信をもっている会社だからこそ、それをいかにサービスに反映して「使いやすく」「投稿しやすく」「読みやすく」できるか。絶対的なものを確立しなければならないという使命を感じていました。
サービスの「投稿しやすさ」「使いやすさ」というと、具体的にはどういうことを指すのでしょうか。また、それをどうやって作り込むのですか?
はてな矢花 地道なことですが、たとえば「このようにドラッグをする」とか「ボタンはこの次にあるのがいいよね」というのを繰り返し、何度も試すんです。システムを組む前に紙の上でも試すし、システムを組んだ後もスムーズにいくかどうかをチェックして、引っかかるところがあるなら直す。作って終わりじゃなくて、作った本人がいいと思えるまで試行を重ねます。
使いやすさは、言い換えると「心地よさ」なんです。そうやって成熟させたものが、「ジャンプルーキー!」(以下、ルーキー!)の投稿フォームになっています。作品の投稿フォームと読むためのビューア部分では、いかに使いやすく、心地よい手触りとなるかに開発当時からこだわっていました。ここで培われたものが、今はてなで提供している他のビューアにもつながっています。
少年ジャンプ+籾山 はてなさんにつくっていただいて本当によかったなと思うのは、「投稿者が使いやすいサービス」に徹底的に徹してくださったことです。実際に漫画を数ページ描いて、投稿して、左右のページをこうやって表示できたほうがいいとか、こんな操作でページを入れ替えたいとか、細かい部分までめちゃくちゃこだわって作ってくれて。常に、もっともっと使いやすくしたい、できるはずだと。だから10年たった今でも、アンケートを取ると「投稿しやすい」というご意見がすごく多いんですよ。それは、はてなさんのおかげなんです。
はてな矢花 それまでも会社として「ユーザーが使いやすいものをつくる」ことにはこだわりがあったんです。しかし漫画を投稿する仕組みは過去に提供したことがなかったですから、まずは、いかにユーザーに寄り添えるかを懸命に考えるしかない。
試行錯誤して、触って、プランナーとデザイナーとエンジニアの三者が納得するところへ落とし込んでいきました。その時々で一番使いやすいもの、一番投稿しやすいもの、一番見やすいものを目指し、実際に形になっていると思います。
「プロへの登竜門」と「自由な投稿サイト」のバランス
運営面では、どんなご苦労があったでしょうか?
ネットコンプレックス今村 運営としては、まず投稿された作品を即時公開していいのか、それともいったん運営がチェックしてから公開したほうがいいかというような部分を考えていきました。もちろん投稿した人はすぐに発表したいと思いますが、先ほど籾山さんがおっしゃったリスクの問題もありますよね。場合によっては、せっかく投稿していただいた作品を非公開にしなければならないこともありえます。誰もが納得できる明確な基準を決める必要があるわけです。
たとえば「卑猥な表現は避けてくださいね」と言ったとしても、描く人によって「卑猥」の基準はバラバラですから。ましてルーキー!は、開始時点からジャンプ+と紐付いていて、同じアプリ内ですぐに読めるものだったんですよ。そうするとルーキー!で掲載されるものが、AppleやGoogleのジャンプ+アプリ自体の判断基準にも関係してくるわけです。
なるほど。そうして、実際の運営にあたってのルールというか、スタンス、方針、レギュレーションなどを決めていったと。
ネットコンプレックス今村 ルーキー!単体で考えた場合と、ジャンプ+と紐付いたときのバランスについては当時かなり議論しました。籾山さんが常に気にされていたのは、ルーキー!の立ち位置ですね。漫画を趣味で描く人向けなのか、プロになりたい人向けなのか。
プロを目指している人は編集者に読んでもらえる期待があるし、趣味で描いている人も読者からコメントとか「いいジャン!」がもらえるのが嬉しい。そういう、どんな人でも利用できるバランスを考えていきました。
少年ジャンプ+籾山 「週刊少年ジャンプ」やジャンプ+の登竜門的な部分としては、編集者が読んで何かしら反応することの需要はあるだろうと思っていました。それをちょうどいい距離感でやるために、「バッジ」機能をはてなさんに作っていただきました。
はてな矢花 雑誌の漫画賞だと「いい企画です」「キャラがいいですね」みたいな選評がつきますよね。そういう表現をサービス内にうまい具合に取り込もうと考えて、投稿作品に対して編集者がバッジをつけられるようにしたんです。表現者を支援するためには、ユーザーさんと編集者とのいい出会いを作らなければならない。それにはどういう仕組みが必要かを考えた結果です。
少年ジャンプ+籾山 そもそも当時はジャンプ+には現場編集者が3人しかいなくて、多くの作品に対してきめ細かな対応をするのは現実的ではない。やれることはなんだろうと考えた結果、「画力」「構成力」「ストーリー」「演出力」「キャラクター」「オリジナリティ」の6種類のバッジを用意してもらいました。そのバッジを作品につけると、読者や作者にも、編集者が投稿作品を全部読んでいることがわかる。そして、その作品のどこがいいと編集者が思っているかも伝わる。
あとは現在も続けている「月間ルーキー賞」の仕組みですね。ルーキー!投稿作品のすべてが対象で、条件を満たすと自動的に漫画賞の選考対象となるシステムになっています。
ネットコンプレックス今村 連絡が来て初めて、自分がそんな賞の対象だったんだと気づく人もいて(笑)。「えっ、お金がもらえるんですか!?」って。
PVではなく、投稿数を指標に
少年ジャンプ+籾山 一方で、必ずしもプロへの登竜門としてではない自由な投稿サイトにもしたかったので、一定の表現のガイドラインさえクリアしていればどんな作品でも歓迎し、その読者にも集まってもらえる自由なプラットフォーム作りも意識しました。
だからこそ僕には、サービスが開始したらどうなるか、全く予想がついていなかった。出版社は本や雑誌を出すのが主な仕事でしたから、ウェブサイト運営の経験が多かったわけじゃない。まして自由な投稿サービスです。全く投稿が集まらないとか、逆にすごく荒れるとか、大きなトラブルに発展する可能性もあると不安に思っていました。
実際は取り越し苦労で、意外といきなりうまくいったなというのが、ルーキー!開始時の僕の感想です。
ネットコンプレックス今村 サービス開始当初は、すでに他のサービスで漫画を投稿している人が、新しい投稿先として試している印象がありましたね。自分の作品を見てもらえる場所がひとつ増えた、という感覚。
年を追うごとにルーキー!でしか投稿しない作家さんが増えていきました。10年の間に似たようなサービスがいろいろ増えましたから、作品の傾向や自分の好みで投稿先を選べるようになったんだと思います。
あと大きかったのは、ルーキー!の投稿をきっかけにジャンプ+でデビューする作家さんが爆増したこと。ジャンプ+の新連載や読切の半分近くがルーキー!出身作家の作品という時まであったんですよ。その結果、プロを目指す作家さんは「ここに載せることがデビューへの近道」と思えるようになったんじゃないかと。
少年ジャンプ+籾山 「果たしてルーキー!出身の作家さんから、大きなヒット作が生まれるのか」という意見もありましたが、7、8年経った頃には『タコピーの原罪』のタイザン5先生であるとか、今年アニメ化している『ラーメン赤猫』のアンギャマン先生、『幼稚園WARS』の千葉侑生先生、『ふつうの軽音部』のクワハリ先生・出内先生などの作家さんが次々に人気作を描いてくださるようになり、もうそんな声はなくなりました。
そもそもルーキー!の投稿作に、どのくらいのPVを達成してほしいというような、具体的な目標はあったんですか?
少年ジャンプ+籾山 PVの目標はありませんでした。ただ、僕は「ルーキー!出身作家の作品で、どこかの段階でアニメ化を目指そう」という話を当時していたんですよね?
ネットコンプレックス今村 たしか区切りのいい数字で言ったと思うんですが、「5年か10年後かに何万部売れて、アニメ化をする作品があったら」という話はしていました。
少年ジャンプ+籾山 そういう作品が現れれば、「ルーキー!が成功した」と言えるんじゃないかと。立ち上げの時にそういう話を僕はしていたようなのですが、自分では全然覚えていない(笑)。
少年ジャンプ+籾山 アニメ化作品も複数ありますし、1冊あたり何十万部の作品も出ているので、目標は達成できたと思います。
少年ジャンプ+籾山 あとは先ほどの話にあったように、「自由な投稿サイトとしてうまく盛りあげる」という目標もあったんですよね。今村さんがおっしゃったように、ルーキー!だけで投稿してくれる人が増えているので、順調に成長したなと思っています。
はてな矢花 籾山さんは立ち上げ時からずっと投稿数を増やすことを大切にされていて、逆に言うとPVについて言われることはなかったですね。
少年ジャンプ+籾山 そうですね。投稿数と、投稿作品のレベル。やはり投稿数が多い方が、レベルの高い、あるいは可能性を感じる作家さんの作品も増えていく気がします。
後編では、少年ジャンプ+籾山・髙橋が中心となって編集者がどんな投稿を求めているのかや作家さんにおススメの「ジャンプルーキー!」活用法、さらにこの先の「ジャンプルーキー!」の展望を語ります。
- 取材・文:さやわか
- 撮影:芝山健太
- 編集:今井雄紀、春田知子(株式会社ツドイ)
この記事の後編となる
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