【第113回】『ふつうの軽音部』が生まれるまで【クワハリ先生インタビュー】

少年ジャンプ+で今年1月から連載が始まり、最新話更新時にはXでトレンド入りするなど、話題沸騰中の『ふつうの軽音部』。
本日4月4日にコミックス1巻が発売されるのを記念し、原作者のクワハリ先生に緊急インタビューを実施!
知る人ぞ知る(!?)ジャンプルーキー!投稿時代のことから、創作論まで、たっぷり話を伺いました。

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『ふつうの軽音部』(原作:クワハリ/漫画:出内テツオ)
ちょっと渋めの邦ロックを愛する新高校1年生・鳩野ちひろが、大阪にある高校の軽音部に入部し、日々の部活動や人間関係に奮闘する様子を追った青春ドラマ。実在の楽曲を使用した歌唱シーンや、リアルで等身大なキャラクター描写、予測不可能な展開で、注目度急上昇中の本作は、原作担当クワハリ氏が2023年1月〜9月にジャンプルーキー!で連載しSNS等で話題を呼んでいた『ふつうの軽音部』をベースに作られている。

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<ジャンプルーキー!で火がつき少年ジャンプ+で連載化>

――クワハリ先生は、漫画賞受賞経験も読切掲載経験もなく、『ふつうの軽音部』が商業誌デビュー作という異色の経歴であることが特筆すべき点だと思うのですが、まずは、原作版『ふつうの軽音部』が生まれた経緯を教えてください。

コロナ禍で「何か新しいことに挑戦したい」と、絵の練習を始めた一環で、「自分が小さい頃から好きだったマンガを描いてみよう!」と思ったのが最初のきっかけでした。
ただ、自分の力ではゼロからストーリーを作れる気がしなかったので、1作目は自分の高校生活を題材にしたエッセイマンガを作ってTwitter(現X)上に連載形式で公開していたんです。
高校生活をひと通り描き終えたときに、「よりお話に起伏を作れるフィクションを作ってみたい」と思い、企画を考える中で生まれたのが『ふつうの軽音部』でした。

ジャンプルーキー!版を読む

題材としては、自分自身が経験していて詳細に描けるものとして「軽音楽部」を選び、「大人数の軽音部を扱った作品はなく、差別化できるのでは」と考え、今の設定にたどりつきました。

(ジャンプルーキー!版 第3話 p4より)

――1作目のエッセイマンガ連載から間をおかずに2作目に着手されていて、「描きたい」「表現したい」という強い創作意欲を感じます。

そもそも自分は絵が下手で、プロのマンガ家なんてなれるわけがないと思っていて、「描ける範囲で楽しく描いてみよう」と、あまり気負ってなかっただけだと思います…。
ジャンプルーキー!(以下「ルーキー」)での連載中も、描き続けるモチベーションになっていたのは、創作欲というよりも徐々に増えていった読者の方々からの反応だったという意識の方が強いです。
『ふつうの軽音部』は3話までは自分のTwitter上で公開していたのですが、もっと多くの人に読んでもらいたいと考え、ルーキーにも同時に投稿を始めました。そこからTwitterでもルーキーでも読んでくれる方が増えていったのですが、最新話をアップするたびにいただくコメントがいつも本当に嬉しくて…。コメントがなかったら描き続けていなかったかもしれませんね。

――そこから、2024年1月に少年ジャンプ+で連載が始まるまではどのような経緯があったのでしょうか?

ルーキー経由で、ジャンプ+編集部の方から連載会議にチャレンジしませんかと連絡をもらいました。
自分の作画のペース的にもスキル的にも、また、当時フルタイムで仕事をしていたこともあり、商業誌での連載は難しいとお伝えしたところ、作画担当として出内テツオ先生を紹介していただき、自分は原作に専念するという条件で、連載会議に挑戦することになりました。
連載が決まってからは、すでにルーキー上で公開していたお話をベースに、各話のペース配分を練り直し、キャラクターデザインなど相談しながら準備を進めていきました。

――作画担当の出内先生との連携も見事ですよね。

出内先生の表現力は本当にすばらしいのですが…特に、ビジュアル面での細かなアイデアは自分では思いつかないようなものばかりでいつも感心しています。読者の方々からも反応のあった、11話の体育祭でのキャラごとに異なるハチマキの巻き方も、自分では絶対に思いつかなかったですね…。

――少年ジャンプ+での連載では、各話のページ数も増えてネームを少しずつ改変していますよね。

ルーキーでは各話8ページで連載していましたが、あれは実は自分の作画力の限界で仕方なく8ページになっていたんです…。各話約19ページになったことで、やむなくはしょっていた部分を今はしっかり補完して描けているなという実感があり、ネームを組み直す作業も楽しいです。

<キャラクターは全員自分自身…!?>

――ジャンプルーキー!投稿時代の話に戻りますが、主人公・はとっち(鳩野ちひろ)をはじめ、キャラクターはどうやって作っていったのでしょうか?

主人公の鳩野はかなり自分を投影していますが、他の登場人物は、「この主人公とバンドを組むとしたらこんな子がいたらいいなあ」とか「ライバルにはこんなキャラで…」と、主人公を中心に配置を考えていきました。
あまり論理的には考えているわけではないのですが…
各キャラクターを「明るい」とか「クール」とか、ざっくりとした第一印象で考えておいて、その第一印象だけだとありがちになってしまうので、二面性を与えられるようにエピソードを作っていったというイメージかもしれません。
例えば、鳩野に入学早々に話しかける(内田)桃は、ぱっと見は「明るい元気な子」ですが、実は恋愛に対してコンプレックスやトラウマを抱えていて…というエピソードが9話〜10話にかけて出てきます。

また、(幸山)厘は「クールなキャラ」として考え始めていたのですが、話を描いている途中で、「展開を進めてくれるような力のあるキャラクターが欲しいぞ」と思い、「第一印象がクールな子にその役割を負わせたら面白いのではないか?」と考え、今のキャラクター像になりました。

――個性豊かで等身大なキャラクターたちに共感しながら読んでいる読者が多いように感じます。それぞれ全然タイプが違うキャラクターをリアルに等身大に描き分ける上で意識していることはありますか?

リアルと言っていただけることが多いのですが、「リアルに描こう」という意識は全然なく……もともと山本さほ先生や福満しげゆき先生などのエッセイマンガを読むのが好きなので、もしかしたらそれがリアルさに影響しているかもしれません。
あとは、実際に会ったことのある人や触れてきた創作物のキャラのエッセンスが混じってはいると思うのですが、どのキャラも明確なモデルはなく、自分の思考回路や性格、経験を投影しているという意識が一番強いかもしれないです。
恥ずかしいですが、例えば、ヨンスのちょっとキモいデートの誘い方は、昔自分がやってしまったことそのままですし、

桃が舞伽に逆ギレっぽく返信をするエピソードがありますが、その拗ね方もすごく自分っぽいんです(笑)。 

そういった自分の経験や感覚を用いてエピソードを入れているのが、リアルと言っていただける理由なのかもしれないですね…。
ただ、自分としては、リアルさを追求するよりも、フィクションとしての盛り上がりや面白さを優先して大事にしていきたいと思っています。

<予測できないストーリーの作り方>

――あるある日常コメディかと思いきや、先の読めないサスペンス的な展開にわくわくさせられ、かと思いきやドラマに感動させされたりと、予測不能な展開と独特な読み味も『ふつうの軽音部』の魅力ですが、ストーリーはどのように考えていますか?

これもあまり計画的には考えていなくて…文化祭や進級などのイベントを軸に大きな流れを先までざっくりと想定しつつ、各話の展開は話ごとに描き進めながら決めていっています。
基本的には「このキャラとこのキャラがぶつかったらどんなことが起こるかな」というところから考え始めることが多いかもしれません。というより、自分がネガティブな人間なので、違うタイプのネガティブな人間同士がぶつかったらどんなことが起こるかをつい想像してしまうというか…。
あとは、今は鳩野のバンドメンバーが揃っていく過程が配信されていますが、「このキャラはどういう流れでバンドに加わることになるだろうか」とキャラありきで、想像を膨らませてエピソードを作っていっているという意識です。
例えば、「桃はキャラクター的に、入学時から鳩野と同じバンドを組みそうにはないから、最初は別のバンドに入れよう」「主人公のバンドがあっさりと序盤で解散してしまうというのも、他の作品にはあまりない展開なので良いかも」…という思考回路だったように思います。

――8話からの急展開で一気にドラマが動き出し、日曜日の配信直後にXでトレンド入りするなど、大きな反響があったのも印象的です。

ありがたいことに、8話以降のドラマが動く話でも何度かトレンド入りしたりと、たくさんの反響がいただけてとても嬉しいです。本当は「1話で主人公の行動原理をしっかり見せてがっつり読者をつかむ」ということができたら良かったのですが、キャラの考えていることをためてから明かしたかったのと、1作目に描いていたエッセイマンガのノリを引きずっていた部分はあるかもしれないです…。

――今後はどんな展開を考えていますか?

ルーキー版の最新話にはまだ追いついていないですが、追いつくまでの話でもどんどん新要素を出していく予定です。追いついた後も、部活の話をしっかり描いていきたいと思っています!

――最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

応援してくれる読者の皆様のおかげで成り立っている漫画です!! まだまだ描きたいことが沢山あるので今後ともお付き合いいただければ幸いです!!

――クワハリ先生、ありがとうございました!

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